山田杏奈が担う、『10の秘密』の物語の深み 瞳の「謎」を膨らませる妖しさとあどけなさ

山田杏奈、『10の秘密』に深みを持たせる

 山田杏奈のフィルモグラフィーはバラエティに富んでいる。マンガ雑誌『ちゃお』(小学館)の誌面モデル「ちゃおガール」としてキャリアをスタートし、その後、数多くのドラマ、映画などに出演を重ねてきた。映画『小さな恋のうた』ではヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。もっと早くプライムタイムの連続ドラマに進出していてもおかしくないほどの実力の持ち主である。

 「透明感の暴力」とは2019年に発売されたファースト写真集のキャッチコピーだが、山田杏奈は透明感とともにただならぬ何かをたたえている。それが如実に表れているのが、2018年に主演した二つの作品だ。

 一つは映画初主演作である押切蓮介原作の『ミスミソウ』。雪深い山奥で中学生同士がいじめに端を発して壮絶な殺し合いをするという物語。山田杏奈はいじめの果てに両親を放火で焼き殺され、自殺を強要された末に、復讐の鬼と化していじめグループの生徒たちを一人ずつ惨殺していく女子中学生の主人公を演じている。真っ黒な髪に真っ黒な目、真っ白な雪の中を真っ赤なコートを着て歩き、相手に刃物を突き立てて真っ赤な返り血を浴びる姿が似合いすぎるほど似合っていた。監督は『先生を流産させる会』の内藤瑛亮。

『ミスミソウ』(c)押切蓮介/双葉社 (c)2017「ミスミソウ」製作委員会

 そしてもう一つは連続ドラマ初主演作となった『幸色のワンルーム』(朝日放送)。両親から虐待を受け、学校でもいじめを受けて自殺寸前だった14歳の少女が、自殺を止めてくれた「お兄さん」と同棲するという物語。お兄さんの目を覗き込んで「一緒に死のう」とコロコロ笑い、すぐさま諦観の混じった表情で「ふたりとも死んだほうがマシでしょ」と呟く山田杏奈の表現力に驚かされる。川に入水自殺しようとする後ろ姿さえ美しかった。本作は朝日放送テレビで制作されたが、テレビ朝日では放送が中止されたことでも知られる。

 かと思えば、主演したドラマ『新米姉妹のふたりごはん』(テレビ東京ほか)では、血のつながらない同じ年の妹を溺愛する天真爛漫な少女をこれでもかと愛嬌たっぷりに演じてみせたのだから、単にダークな役柄が得意な若手女優という括りには収まらない。

『新米姉妹のふたりごはん』(c)「新米姉妹のふたりごはん」製作委員会

 つまり、『10の秘密』で山田杏奈が主人公の娘・瞳を演じることで、この娘が過去に人を殺めていてもおかしくないし、自分を誘拐した相手のことを好きになっていてもおかしくないし、どこまでも純真でか弱い被害者であってもおかしくないという状況になっている。そして、この瞳という娘がどのような「秘密」を持つ役柄だったとしても、山田杏奈はそれを見事に演じてみせるだろう。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
『10の秘密』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:向井理、仲間由紀恵、仲里依紗、松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.)、山田杏奈、高島豪志、堀田茜、河村花、佐野史郎、遠藤雄弥、藤原光博、山野海、名取裕子、渡部篤郎ほか
脚本:後藤法子
音楽:林ゆうき、橘麻美 
演出・プロデューサー:三宅喜重(カンテレ)
演出:宝来忠昭
プロデューサー:河西秀幸(カンテレ)
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ

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