『映像研には手を出すな!』“個性”を”役割”にシフト 際立つキャラクターに隠された魅力

『映像研』キャラクターに隠された魅力

 浅草とは同じ中学校の出身であり、第1話より彼女と行動を共にしていた金森さやかは、回を追うごとにマネジメント能力と頭の回転の早さを随所で垣間見せてくる。1人ではアニ研の上映会に行けずにいた浅草と連れ立ち、後に映像研のメンバーとなる水崎ツバメと出会い、3人は映像研を立ち上げるのだが、そこからのフェーズにおいて金森の存在は映像研に不可欠なものとなってくる。

 浅草、水崎のアニメーションを実際に作る「動」の働きかけに対し、金森は実際にアニメーション制作には触れないものの、彼女らを時に扇動し、管理し、冷静に対峙する「静」の働きかけを担う。彼女の行動はまさにアニメーション界におけるプロデューサーのそれであり、実際に制作へ関わる者だけでは成り立たないアニメーションという総合的な制作物において、非常にナチュラルなキャラクター性で重要な位置に立っている。そう考えると、彼女なしで「映像研」は成り立たないといっても過言ではないだろう。

 第1話で浅草、金森と劇的な出会いを果たした水崎ツバメは、この3人の中で最もプロフィールが際立っている人物といえる。というのも彼女は「カリスマ読モ」であり「有名人」なのだ。しかし彼女自身はアニメが大好きで、夢はアニメーターになることである。アニメーションで表現される動きのリアルさに心を奪われ、「動くこと」を演技と捉え、アニメーターとは役者である、と第3話で語ったシーンは印象に残った。

 読者モデルとアニメーター志望という2つの顔を持つ彼女だが、身体で表現することを仕事にしており、演じる素質が最初から身についている状態であるからこそ、前述の2人とはまた違うアプローチでアニメ制作に働きかけることができる。創作とは直接的な繋がりのない仕事を並行しつつ、アニメーターとして動画制作に関わっている水崎。それには相当のモチベーションが必要になりそうだが、彼女においてはそんな「動きで演じる」ことへの熱意が冷めないからこそ、3人の中での役割が成立しているのだといえよう。

 こうしてそれぞれのキャラクター性を考察し述べてみると、本作が彼女らを主人公に据え、アニメーション制作を描いている事に対し非常に高いバランスを感じざるを得ない。各々の個性や能力をそのままアニメーションの役割にシフトさせ、物語として成立させているからこそ、視聴者ないし原作の読者は女子高校生が繰り広げる青春あり、冒険ありのストーリーを楽しみながら、同時にアニメーションの妙を感じることができるのだ。

 マンガからアニメーションへ、「絵が動く」という感動を体現させ私たちを楽しませてくれるアニメ『映像研には手を出すな!』。次なる第6話では一体どんな「作品」が爆誕するのだろうか。今後も個性際立つ3人から目が離せなくなりそうだ。

■安藤エヌ
日本大学芸術学部文芸学科卒。文芸、音楽、映画など幅広いジャンルで執筆するライター。WEB編集を経て、現在は音楽情報メディアrockin’onなどへの寄稿を行っている。ライターのかたわら、自身での小説創作も手掛ける。

■放送情報
TVアニメ『映像研には手を出すな!』
NHK総合にて、毎週日曜深夜24:10〜
原作:大童澄瞳(小学館『月刊!スピリッツ』連載中)
監督:湯浅政明
声の出演:伊藤沙莉、田村睦心、松岡美里ほか
キャラクターデザイン:浅野直之
音楽:オオルタイチ
アニメーション制作:サイエンスSARU
(c)2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会
公式サイト:eizouken-anime.com
公式ツイッター:@Eizouken_anime

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