世界中の人間に共通する課題 “なさそうでなかった”戦争映画『ジョジョ・ラビット』が描いたもの

『ジョジョ・ラビット』が描いたもの

 現在、イスラエル・パレスチナ紛争によって、軍事力によって上回るユダヤ人が、アラブ人を攻撃したり、排斥、差別を行うという問題が起きている。歴史的に差別を経験してきたユダヤ人もまた、差別側にまわることもある。

 では、人類の歴史において最も悪いのは何なのだろうか。それは、他者への差別や暴力であり、事実を確かめずにそのような思想を受け入れてしまう、一人ひとりの心の弱さなのではないだろうか。ジョジョは最終的にワイティティ演じるヒトラーおじさんを排除することに成功する。それは、押し付けられた思想に乗っかるのではなく、事実を基に“自分の頭で考える”ことの重要性を描いた部分である。

 エルサは両親を殺害したナチスを生涯許すことはないだろうし、ナチスに荷担してきたジョジョの過去を許す義務もないだろう。しかし、ユダヤ人の本質が宗教や思想などの文化的なものであるのと同様、ナチスもまたひとつの思想や主義に過ぎないのも確かである。偏見や差別思想を持っている人であっても、それを取り除くことができれば、生まれ変わることは可能なはずだ。そうすれば、かつての敵同士も、いつかはともにダンスできる日が来るかもしれないのだ。

 自分ひとりの力で戦争を回避することは難しい。だが、ナチスの思想を否定し戦った、勇敢なジョジョの母親のように、一人ひとりが、そのとき“やれること”をすれば、悲劇を止めることはできるかもしれないし、事前に戦争を阻止することもできるはずだ。それは社会のなかに生きている、世界中の人間に共通する課題であるといえる。

 本作は、ナチスを題材にした映画を、まさに“いま、このとき”に生きている我々自身の問題として描いた。そしてそれを描くためには、必ずしも当時のドイツを経験として知っている必要はない。同じ問題を背負った、いまの人間の姿をそこに映し出せばいいのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ジョジョ・ラビット』
全国公開中
監督・脚本:タイカ・ワイティティ
出演:ローマン・グリフィン・デイビス、タイカ・ワイティティ、スカーレット・ヨハンソン、トーマサイン・マッケンジー、サム・ロックウェル、レベル・ウィルソンほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2019 Twentieth Century Fox
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