『スカーレット』にとって格闘技とは? 喜美子の柔道、武志のキックボクシングに込められた精神

『スカーレット』にとって格闘技とは?

 戦前から昭和、平成にかけて目まぐるしく変わる社会の様子は、登場人物の生活にも反映されている。川原家では、長男の武志(中須翔真)が八郎(松下洸平)と喜美子にテレビをねだる。お目当てはキックボクシングの「サワムラ」。直接登場しないものの、真空飛び膝蹴りを武器に「キックの鬼」と呼ばれて国民的人気を博した沢村忠がモデルと思われる。

 武志が弟子の三津(黒島結菜)を相手にキックボクシングごっこをする場面も見られたが、子どもだけでなく大人同士でも話題になるくらい当時の沢村の勢いはすごかった。第80回では、信作から夫婦の矛盾を指摘された喜美子が逆ギレして、ファイティングポーズを取るも八郎が制止(その後、喜美子・信作vs八郎の構図になる)。文字通り一挙手一投足が国民的関心を集めるその存在の大きさを感じさせた。

 朝ドラでのキックボクシングへの言及は今作が初めてではない。前作『なつぞら』(NHK総合)で、主人公のなつ(広瀬すず)が作画監督を務める架空のテレビアニメ『キックジャガー』はキックボクシングが題材。実際になつが作画監督を打診された際に、制作部長が沢村忠に大ハマりしている様子が描かれた。時代背景を考えても沢村忠の影響があると推察される。

 相手に向かって体当たりで挑む格闘技は、感情を全身で表現する喜美子にとって身近なものだ。荒木荘時代に大久保(三林京子)のしごきに不満を爆発させる術もないまま、枕を大久保に見立ててプロレス技(バックドロップ)をかける場面もあり、絵付けや陶芸と並んで喜美子が自分を表現する手段になっている。また、男性優位な時代にあって女性が力をつけていくことを目に見える形で描いているとも言えるだろう。

 『スカーレット』における格闘技は単なる道具立てを超えて、時代と登場人物の生きざまを雄弁に語っている。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、富田靖子、大島優子、林遣都、福田麻由子、黒島結菜、本田大輔 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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