岩井俊二新作『ラストレター』にみる、「作家の映画」の限界と可能性

「作家の映画」の限界と可能性

 長編では初の劇場公開作となった1995年の『Love Letter』(今回の『ラストレター』は同作への「アンサー作品」とされていて、中山美穂や豊川悦司の出演もそこに由来している)を筆頭に、『スワロウテイル』(1996年)、『四月物語』(1998年)、『リリィ・シュシュのすべて』(2001年)、『花とアリス』(2004年)と、特に90年代中盤から00年代前半にかけて日本のカルチャー・シーンに大きな足跡を残してきた岩井俊二作品。特に『Love Letter』は国内だけではなくアジア各国に多くの熱狂的なファンを生んだ作品で、2018年に中国で『你好,之華(Last Letter)』が製作された背景にもなっている。ちなみに同作はタイトルからもわかる通り『ラストレター』と同じ脚本の映画化作品であり、つまり現在公開中の『ラストレター』は岩井俊二が監督した2作目の『ラストレター』ということになる。

 『你好,之華(Last Letter)』は中国をはじめ、北米、オーストラリア、ニュージーランド、香港、シンガポールで公開されて、累計興収8020万1000元(約12憶4000万円)を記録。その影響力の大きさのわりには、世間的なヒットと実はあまり縁がない岩井俊二にとって、現在のところ最も多くの興収を稼いだ作品となっている。現在の日本の映画界、特に興行においては冷遇されがちな「作家の映画」だが、その可能性は国外に広がっているのかもしれない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)、2020年1月30日発売。Twitter

■公開情報
『ラストレター』
全国東宝系にて公開中
監督・脚本・編集:岩井俊二
原作:岩井俊二『ラストレター』(文春文庫刊)
音楽:小林武史
出演:松たか子、広瀬すず、庵野秀明、森七菜、小室等、水越けいこ、木内みどり、鈴木慶一、豊川悦司、中山美穂、神木隆之介、福山雅治
主題歌:森七菜「カエルノウタ」(Sony Music Labels)
配給:東宝
(c)2020「ラストレター」製作委員会
公式サイト:https://last-letter-movie.jp/

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