ポストジブリという問題設定の変容、女性作家の躍進 2010年代のアニメ映画を振り返る評論家座談会【後編】

“ベタを恐れない”山崎貴監督

藤津:神話の再構築といえば、日本で、渡邉さんのおっしゃるようなエイブラムス的なことをしているというのは、山崎貴監督ではないでしょうか。2019年は3本作品があるけど、アニメだと『ドラゴン・クエスト ユア・ストーリー』の総監督と『ルパン三世 THE FIRST』。『STAND BY ME ドラえもん』もそうですが、山崎監督は再構築する際に、原点からパーツを洗って持ってくるのではなく、世間が漠然と思ってる一般的イメージに向けて再構築する印象です。『ドラクエ』はそういう意味では野心的すぎましたが、『ルパン三世』では、「『ルパン』といえば『カリオストロの城』でしょ?」とか「こういう活劇のお手本は『ラピュタ』でしょ?」といったものを衒いなく、必要な仕事として入れてくる。『ルパン三世』は最近のTVシリーズでは、ルパンが何者かという問いにきちんと向き合って作っていたのに対して、山崎監督は全くそこに興味なく、みんながふんわり思っている『ルパン三世』を作ることに意義を見出している。

『ルパン三世 THE FIRST』(c)モンキー・パンチ/2019映画「ルパン三世」製作委員会

渡邉:大衆の集合的な記憶を召喚し、惹起するのがすごく上手いんですよね。シネフィルにはまったく好かれないと思うんですけど(笑)、僕は面白いと思ってしまいます。

杉本穂高(以下、杉本):映画は大衆娯楽でもあるので、いなくてはならない存在ですね。

藤津:山崎さんはベタを恐れない。だから有名なキャラクターを使うと、「みんなが思ってるのはこれでしょ」という感じになってしまってて寄せすぎのように感じてしまいます。実写作品だとベタに寄せきれない原作があるので、程よいバランスになるのかも。『SPACE BATTLESHIP ヤマト』は実写だけど有名キャラクターだから、「みんなが思ってる『ヤマト』」に寄せてくるんですよね。さらに「みんなが思ってるキムタク」までも乗っかってくる。

プログラムピクチャーとしての『名探偵コナン』

ーー興行的に見るとこの10年間で『劇場版 名探偵コナン』は大躍進を遂げましたよね。

藤津:語義から少しズレますけど、日本のアニメで最も成功したプログラムピクチャーですよね。『ポケモン』や『ドラえもん』も長くやっているけど興行成績に浮き沈みがある。一方で『コナン』は多少前年より下がることはあっても、テコ入れをするような大きな落ち込みがなく一番安定して成長してきているし、監督が静野孔文さんに代わってからはその後も連投することで、映画としていかにエンタメ感を上げていくかというノウハウが蓄積されていった。ミステリー度の高い話もありますが、おおむね洋画の大作アクションのようなものを想定して作られていますよね。

『名探偵コナン 紺青の拳』(c)2019青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

杉本:あまり推理してない作品も多いですよね。

藤津:今の観客に対応した形ですよね。しかも『コナン』は、20年以上続いているので、観客の年齢がどんどん上がり親になって、その子どもが見始めるというゾーンに位置している作品で、2世代コンテンツになるための道がこの10年で整備されました。

ーー2014年の『異次元のスナイパー』で41億円を記録したあたりで流れが変わりましたね。

藤津:2016年の20周年記念作品『純黒の悪夢』を大きく盛り上げようと何年か前から仕込んでいて、原作ではその2年くらい前から安室透を謎のキャラで登場させていました。翌年の『から紅の恋歌』も、前年の満足感が反映されて数字は落ちませんでしたし、内容的にもミステリーとアクションの融合が最近では一番洗練されていました。そして、人気キャラと2年連続面白かったという信用を持った上で、静野路線を踏まえた立川譲監督の『ゼロの執行人』では見事に90億を突破しました。

渡邉:昨今の『コナン』人気に関しては、僕自身はあまり私見は持ち合わせていません。ただ、妻も学生たちも好きですね。やはり赤井秀一や安室透のようなキャラクターには、女性ファンが付く。映画の『コナン』は、爆発やアクションシーンがハリウッド映画並みに見応えがあり、女性の中にはハリウッドの実写のアクションや爆発シーンは怖くて見れない人もいるけど、アニメ絵なら大丈夫で、『コナン』でそういうシーンを楽しみたいという需要があると聞きました。

藤津:最初から女性ウケを狙ったわけではないと思いますが、もともとは『コナン』は女性ファンが多い。毎年定期的にやってるアニメ映画で恋愛要素があるのは『コナン』だけで、『ドラえもん』や『ポケモン』だと成長に連れて卒業していくところ、『コナン』はドラマ性や恋愛要素もあって少しシリアスでもあるから、きちんと満足感があるので、コンテンツとして観客が離れ難いんです。そのベースがある上に、まず『コナン』のキャラクターが好き、親近感を持っているという層がいて、さらに近年安室透や赤井秀一といった強度が高いキャラクターが投入されて、という流れだと思います。

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