桜庭ななみが選んだ「別れ」のかたち 『スカーレット』“父の死”で浮かび上がる三姉妹の個性

『スカーレット』次女が選んだ「別れ」の形

 その一方で、父の近くで、衰弱していく様を目の当たりにしながらも、何も語らず、かといって目を逸らさずに静かに見守ってきたのが、おっとり穏やかな「末っ子」の百合子(福田麻由子)だ。

 ずっと一家の中では子ども扱いされてきたが、父と衝突ばかりする次女・直子(桜庭ななみ)が家を出ると、かわりに父への「ツッコミ役」を果たそうとしたり、家の中が暗い雰囲気のときには和ませる発言をしたりと、常に一歩引いて家族全体を見ている。リアリストであり、空気読みであり、大人で、芯の強さを持っているのは、「末っ子」力によるものだろう。

 そして、父の最期に立ち会うことができなかったばかりか、四十九日を過ぎて家に戻る次女・直子。姉ばかりを溺愛し、頼る父を見て育ってきただけに、ひねくれたところも、姉への対抗心もあり、父とは衝突ばかりしてきた。これもまた、「真ん中っ子」あるあるではないだろうか。

 しかし、父の最期のときに帰ってこなかった直子を責めたい気持ちはわかるが、「お父ちゃんとウマが合わなかったからといって」と本人に向かって言ってしまう喜美子の鈍感さ・残酷さ。当然悪意はないが、こうしたところに直子はひそかに苦しめられてきたんじゃないかと思う発言だった。

 そして、直子が帰ってこなかったのは、「父親の言うことをこれまで全然聞かなかったから、1回くらい父が言う言葉『帰ってくるな』を聞いた」という意外な理由だったことが明かされる。しかも、直子は「一発当てるで。一発当てて楽させたる」と、目を輝かせ、父とそっくりな発言までし始めるのだ。

 最初から似た者同士で反発し、衝突してばかりいるように見えた父と次女の「別れ」のかたちの選び方も、やっぱり似ている。今際の際で、これまでと別人のように優しい顔を唐突に見せ、泣いてみせるよりも、このほうがよっぽど常治と直子の別れらしい。そして、直子は常治がいなくなり、川原家の欠けてしまった1ピースに自身がなろうとしているようにも見える。

 朝ドラでは、弟や妹がいるしっかり者の長女がヒロインになり、父が戦争で不在になった家を支えたり、自分の道を突き進んでいったりする頼もしい姿が描かれることが多い。

 三姉妹モノは少なく、すぐ思い浮かぶのは、まさにヒロインが父のかわりとなる『とと姉ちゃん』や、『カーネーション』のヒロインの娘たち、三女がヒロインとなった非常に稀有な朝ドラ『まんぷく』くらいだろうか。その中でも、「しっかり者で気丈な長女」の繊細で臆病で弱い一面を描いた『スカーレット』のリアリティに、唸らされた。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、桜庭ななみ、福田麻由子、黒島結菜、北村一輝、富田靖子、大島優子、林遣都、松下洸平、マギー、財前直見、佐藤隆太、水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、正門良規、本田大輔、三林京子、西川貴教、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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