年末企画:小田慶子の「2019年 年間ベストドラマTOP10」  アラフィフの三角関係とホームドラマ回帰の兆し

小田慶子の「2019年ドラマTOP10」

1位『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』

 スマホをいじったりご飯を食べたりしながら見ると理解しきれないけれど、テレビの前に正座待機し集中して見れば、こんなに面白いドラマはなかった。『木更津キャッツアイ』(TBS系)で草野球チームのおバカな青年たちを描いていた宮藤官九郎が17年を経て、日本を代表するアスリートたちの物語を描くとは! スポーツマンシップだけでなく、歴史ドラマとして日本が無謀な戦争に突入していく過程も戦争の悲惨さも描き出し、「クドカンどうした? そんな人だったっけ」と良い意味で驚かされた一年間だった。スタッフから膨大な史料が提供されたということで、オリジナルだけでなく脚色もうまい宮藤にとっては、史実が原作の役割を果たしたのかなと推察する。また、あまり他で言及されていないが、『いだてん』が伝説的ドラマになったのは、中村勘九郎と阿部サダヲという2人の主演俳優の魅力も大きかった。勘九郎が演じた金栗四三と阿部が演じた田畑政治は、どちらも大河ドラマの主人公らしい有名な人物ではない。オリンピックの魅力にとりつかれ、馬鹿のひとつ覚えのようにオリンピックオリンピックと言って周囲に迷惑をかけながら騒いだ挙げ句、クライマックスとなる1964年の東京オリンピックでは脇役となってしまう。そんな“負け組”の人物をリアルに構築した演技が、歴代大河の主演の誰にも負けないぐらい素晴らしかった。金栗は一度もメダルを取ることのないまま、教え子を戦場に送り出すことになり、オリンピックを開く予定だった競技場で無念のバンザイをする。田畑はオリンピック組織委員会で更迭されたとき、「どこで間違えた?」と自問し、かつて自分が政治家を利用していたことが巡り巡って自分を追い込んだと悟る。2人が自分の弱さやあやまちと向き合うときの迫真の演技にしびれた。登場人物としては、古今亭志ん生を中心とする落語家たちは必要だったかという議論があるが、宮藤勘九郎が馴染みのないスポーツの話を一年間描く上では、芸能世界をクロスさせることが必要だったのだろうと思う。半身不随の志ん生を演じていたビートたけしが、ラストで立ち上がり、ひとつの噺としての『いだてん』を終わらせてくれる趣向は最高に粋だった。

2位『きのう何食べた?』

 よしながふみという優れた作家が、BL(ボーイズラブ)的な漫画から一歩踏み出してリアル寄りの男性カップルを描いた物語を、西島秀俊と内野聖陽という大物俳優の夢の共演で実写化。主人公のシロさん(西島)とケンジ(内野)が毎晩、自宅で夕食を作って食べるなど、男女の夫婦と変わらない日常生活を送る様子を描くことで、ゲイの人たちが特殊ではないことをさりげなく伝えた。脚本の安達奈緒子は、40代のおじさん2人が見せるかわいらしさと性的マイノリティとして生きる彼らの抱えるせつなさという原作のエッセンスをうまく抽出。原作どおり明らかなラブシーンはないのだが、最終話、ケンジがシロさんの髪を切り、後ろからギュッと抱きしめる場面は、愛情が前面に出た名シーンだった。ラストシーンのアドリブでのやり取りのように、彼らが性愛も込みでのパートナーであることを演技で匂わせたい内野と、そこで照れてしまう西島という役者同士の関係性も微笑ましかった。

3位『サギデカ』

 『きのう何食べた?』と同じ安達奈緒子の脚本で、こちらはオリジナル。オレオレ詐欺を組織的に仕掛ける男たちと、正義感の強い警部補(木村文乃)の対決を描く。オレオレ詐欺は『詐欺の子』(NHK総合)、『スカム』(MBS・TBS系)でも描かれた今年流行のテーマだが、本作は捜査サスペンスのフォーマットに沿っているので、まずシンプルに面白い。物語が展開するにつれ、詐欺組織の実働員である“かけ子”(高杉真宙)、その上司の“店長”(全裸シーンがインパクト大の玉置玲央)、さらにその上の“番頭”が長塚圭史と、しだいにラスボスに近づいていく。青木崇高演じる実業家も登場時から明らかに怪しくていい。さらに、詐欺の被害者である老人たちの心の傷もきちんと描いており、リアリティがあった。2018年の『アンナチュラル』(TBS系、脚本は野木亜紀子)もそうだが、地上波にとっては本作のようなオリジナルでクオリティの高いサスペンスをコンスタントに作っていくのが、配信サービスに対抗する上でのポイント。その書き手が女性になってきている現状も興味深い。

4位『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』

 同性愛を描くドラマとして2018年の『おっさんずラブ』から2019年の『きのう何食べた?』へのアップデートだけでもすごかったのに、『何食べ』の直後に本作が放送開始し、驚いた。腐女子のひとりとして「こんなにかっこよくて演技力のある俳優さんたちがカップルを演じてくれるなんて、尊すぎる。いい時代だ~」とほくほくしていたところ、その顔を写真に撮られてしまったような衝撃があった。本作ではゲイの高校生(金子大地)が学校ではセクシャリティを隠している様子、そこに無邪気に突進してくる腐女子(藤野涼子)、そんな彼女なら付き合えるかもしれないと考える主人公の打算など、きれいごとではない人間関係が描かれる。終盤、主人公はアウティングされ校舎から飛び降りる。原作小説を書いたのはゲイの作家で、まだまだ社会が性的マイノリティの人を救えていない現状を突き付けられた。「混ぜるな危険!」の関係であるゲイと腐女子をあえて出会わせ、両者のリアルを描き出しながら相互理解の物語に仕上げた原作小説と脚色がみごと。金子大地と藤野涼子の好演も忘れられない。

5位『だから私は推しました』

 アイドルの「推し」と「押し」(階段からの突き落とし)を掛けたタイトルに座布団一枚。描かれるのは、部活のような感覚でアイドル活動をしている女の子たち。年下の彼女たちに幻想と自己承認を求めるファンという名の大人。そんなアイドルとファンの近すぎる距離。アイドルが風俗サービスのように自分の時間とプライバシーを切り売りするシステム。数年前、筆者が地下アイドルを取材したときに感じた“危うさ”が全て反映されていて驚いた。脚本の森下佳子の素材の取り込み方はさすが。アイドルが粘着質のファンからストーキングされ自宅を突き止められるという展開も、現実にもあったことだけに怖い。キャストでは、女性なのに女子アイドルに夢中になる美人というトリッキーな主人公を体現した桜井ユキ、主人公の“推し”になる弱気なアイドルを演じた白石聖がすばらしかった。

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