『冬時間のパリ』オリヴィエ・アサイヤスが危惧する映画界の未来 「形態そのものが揺らいでいる」

オリヴィエ・アサイヤス、デジタル化を語る

「私が危惧しているのは、映画の形式の変化」

ーー『アクトレス』も『パーソナル・ショッパー』もそうですが、あなたの作品ではつねに“デジタル化”に関連するものが作品のどこかに描かれていますね。

アサイヤス:そうですね。私は“世界の変化”に興味があるんです。他の時代に生きていたら違ったかもしれませんが、いま我々が生きている現代で、大きな変化が起きている原動力となっているのがデジタル化なので、デジタル化に惹きつけられるわけです。なぜかというと、デジタル化は社会を変革するだけでなく、個人を変革するものでもあるから。なので、現代劇を描く場合は、現代社会そのものや現代社会に生きている人間を無視して書くことはできません。

ーー今回の作品では、アラン、セレラ、レオナールら登場人物たちはつねにデジタル化について議論をしていますが、監督自身はデジタル化についてどのような考えを持っているのでしょうか?

アサイヤス:私自身は客観的に見ています。映画では、私自身の考えを提示するのではなく、登場人物たちにいろんな視点から語らせて、観客にもその視点を共有したいのです。私自身の考えはまったく重要ではありません。私たちの意図に反して、起こるべきことは起こってしまいますから。なので、ジャッジする前に、どうしてそうなったのかを理解しようとするのです。書籍のデジタル化には、もちろんいいところもあると思います。できるだけ自分もその恩恵を受けたいと思う一方で、ネガティブな面に対しては距離を取ろうとします。

ーーデジタル化は書籍だけではなく、映画界にも言えることですよね。

アサイヤス:鑑賞方法は随分と変わりましたね。昔はとても限られたものでしたが、今は選択肢が増えました。ただ、まだ安定しておらず、過度期にあると思います。Netflixはひとつの経済モデルを提供したわけですが、Apple TVやDisney+など、ライバルも増えてきました。Netflixは、『ROMA/ローマ』や『アイリッシュマン』などの作品を制作することによって、彼ら自身のアイデンティティーを可視化しているわけですが、Apple TVやDisney+などの台頭によって、数年後にはそういうオリジナル作品の制作自体も止めてしまうのではないかと私は思っています。

ーー映画界は今後、どのように変化していくと予測しますか?

アサイヤス:私が危惧しているのは、映画の形式の変化です。ハリウッド映画を中心に、映画のあり方が変貌していく悪い予兆が見えています。映画はやはり、ひとつのまとまりとして提示されるべきもの。しかし現在は、テレビシリーズの影響を受けてか、前日譚や後日譚、スピンオフ、ユニバースなど、ひとつの作品から派生するかたちで、大きなひとつのものを形成していくようになっています。映画の形態そのものが揺らいでいるのです。なので、今後誰が映画に出資していくのかも気になるところです。映画スタジオの人間以外がプロデューサーを務める機会も増えていくのではないかと思っています。

(取材・文・写真=宮川翔)

■公開情報
『冬時間のパリ』
Bunkamuraル・シネマほかにて公開中
監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
撮影監督:ヨリック・ル・ソー
製作:シルビー・バルト、シャルル・ジリベール
出演:ジュリエット・ビノシュ、ギョーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュ、クリスタ・テレ、パスカル・グレゴリー
配給:トランスフォーマー
協力:東京国際映画祭
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
2018年/フランス/フランス語/107分/原題:Doubles Vies/英題:Non-Fiction/日本語字幕:岩辺いずみ
(c)CG CINEMA/ARTE FRANCE CINEMA/VORTEX SUTRA/PLAYTIME
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/Fuyujikan_Paris/

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