『いだてん』最終回で再び描かれた「万歳!」に涙 歴史の闇と光を“オリムピック噺”につなげた脚本の凄み

『いだてん』最終回で再び描かれた「万歳!」

 この物語は「負け」を味わった者の物語だ。金栗四三は日本人初のオリンピック選手だが、出場したオリンピックでは惨敗し、非難を浴び続けた。聖火ランナーにもなれなかった。田畑政治は東京オリンピック招致のレールを敷いたが、事務総長を解任させられ、自らレールの上を走ることができなかった。聖火最終ランナーを立派に務めた坂井義則(井之脇海)も、日本代表の選考には落ちている。しかし彼らには共通点がある。壁に立ち向かい続けたのだ。何度も何度も走り続け、しつこく口を出し続け、与えられた大役を担う決意をした。目に涙を浮かべ、前を見据える彼らの顔は清々しかった。その姿を「敗者」だと笑う者はいない。

 1967年3月21日、1912年のオリンピックを祝う式典が行われたストックホルムで、金栗四三は54年8カ月6日5時間32分20秒3ぶりにゴールテープを切った。記録映像に映し出された金栗四三の足取りはとても嬉しそうだった。金栗はこんな言葉を遺している。

「55年ぶりにやってきました」
「実に長い道のりでした。走ってる間に、妻をめとり、六人の子と十人の孫が生まれました」

 金栗四三が遺した言葉は、まさに落語のサゲ。歴史の光と闇を隠すことなく描いた本作の秀逸さもさることながら、見事なオチに驚いた。平成から令和をもつないだ本作。後世まで語り継がれる大河ドラマになったことは間違いないだろう。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』総集編
[NHK総合]
12月30日(月)
午後1:05~3:20 〈第1部〉前・後編
午後3:25~5:40 〈第2部〉前・後編
[NHK BSプレミアム]
1月2日(木)
午前8:00~10:15 〈第1部〉前・後編
1月3日(金)
午前8:00~10:15 〈第2部〉前・後編
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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