4コマ漫画の実写化作品はなぜ泣けるのか? 『殺カレ死カノ』『ぎぼむす』『自虐の詩』から考察

4コマ漫画の実写化作品が生まれる理由とは?

 そして、『殺さない彼と死なない彼女』。原作では別々の物語として描かれている、一見繋がらないように見える3組の男女、あるいは女同士の物語が、原作における「インターミッション」という挿話の中で断片的に描かれる1人の男の存在と、「未来の話をしよう」という言葉によって、映画では見事に繋がっていく。

 原作において特に素晴らしいのが、女の子たちが見る夢の儚さである。きゃぴ子は誰かに抱きしめてもらいたくて、本当は見ていない夢を語る。君が代(映画では撫子)は八千代に告白される幸せな夢を見て「現実を不幸だと勘違いしてしま」いたくないからはやく覚めてしまいたいと願う。そして死なない彼女(鹿野)は……。これは読んで、あるいは映画を観て確かめてほしい。

(c)2019映画『殺さない彼と死なない彼女』製作委員会

 夢は、誰かの一方通行な願望が形を成したに過ぎない。だから、夢の中でしかちゃんと繋がれない彼らは哀しい。その3つの夢の描写を実に美しく掬いあげた小林啓一監督の手腕もまた、一つの原作の魅力に忠実に向き合おうとした結果である。

 4コマ漫画は、人生に似ている。小さななにげない日常が繰り返されることで人生になる。それは時に加速したり失速したり、ふと過去に戻って、愛おしい現在を抱きしめたりする。そしてその複数の人生が組み合わさることで、「人間」というものそれ自体が描かれる。誰かが誰かを思いやり、やがて生まれていく愛は、どんな人生をも肯定する。だから、泣かずにいられない。その作品にちゃんと向き合った誰かがそれぞれのフィールドで新しい何かを作った。だから新しい「奇跡」が誕生したのだろう。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■公開情報
『殺さない彼と死なない彼女』
全国公開中
出演:間宮祥太朗、桜井日奈子、恒松祐里、堀田真由、箭内夢菜、ゆうたろう、金子大地、中尾暢樹、佐藤玲、佐津川愛美、森口瑤子
監督・脚本:小林啓一
原作:世紀末『殺さない彼と死なない彼女』(KADOKAWA刊)
配給:KADOKAWA/ポニーキャニオン
制作プロダクション:マイケルギオン
製作:「殺さない彼と死なない彼女」製作委員会
(c)2019映画『殺さない彼と死なない彼女』製作委員会
公式サイト:http://korokare-shikano.jp/

■番組情報
『義母と娘のブルース 2020年謹賀新年スペシャル』
TBS系にて、2020年1月2日(木)21:00〜放送
出演者:綾瀬はるか、竹野内豊、佐藤健、上白石萌歌、井之脇海、横溝菜帆、奥貫薫、谷口翔太、宇梶剛士、浅利陽介、浅野和之、麻生祐未
原作:桜沢鈴『義母と娘のブルース』(ぶんか社刊)
脚本:森下佳子
プロデュース:飯田和孝、中井芳彦、大形美佑葵
演出:平川雄一朗
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/gibomusu_blues/

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