プロレスライターが見る『旗揚! けものみち』の面白さ ファンすら唸らせる治外法権な作品に?

 また、源蔵が異世界に存在しないプロレス技で圧倒するのも嬉しい描写。例えば、カーミラが「不思議だが効く技」と評した「四の字固め」。活字プロレスの創始者、I・Yこと故・井上義啓『週刊ファイト』編集長は、デストロイヤーの代名詞だった四の字固めを「大袈裟に痛がっているだけだろう」と、思っていたところ、技を受けた力道山が「足が腫れて紐が食い込んでる」と、リングシューズの紐を若き日のアントニオ猪木にハサミで切らせてようやく脱ぎ、その内出血でパンパンに膨れあがった足に衝撃を受けたと述懐している。

 再現動画でも「危険なので」とマットを使っているが、プロレス技はそれだけの破壊力がある。格闘技という概念がない異世界では最強だという説得力を伴った描写は、プロレスファンとしては溜飲が下がる思いなのだ。

 そして特筆すべきは源蔵が「異世界で最も強き者」として召喚されるところ。90年代末からの総合格闘技における「プロレスラー最強伝説」の崩壊は、プロレスファンにとっての痛恨事であるが、『けものみち』の世界線では、プロレスラーが最強なのだ! 感涙にむせぶしかない。

絶妙なキャスティング

 源蔵役にベテラン小西克幸を起用し、重厚で、時に暑苦しくめんどくさい、愛すべきプロレスラーとなった。ケモナー描写が一層笑えるものになっているのはその演技故である。

 一方で、周りを固める個性豊かな女性キャラクターは比較的若い声優が起用され、軽妙な掛け合いでハイテンションのストーリー展開をアシスト。原作者が共通の『この素晴らしい世界に祝福を』コンビの起用もファンには嬉しいところ。ヒロイン・アクア役だった雨宮天が、底意地の悪いイオアナ役を幼少期から現在に到るまで巧みに演じているのには驚かされた。

 そして特筆すべきはMAOを、かつてプロレスラーを志し、プロレス通として知られる稲田徹が演じることで、物語にさらに説得力が増している点だ。アニメイトガールズフェスティバルで行われたDDT提供試合にゲストで登場してリングで大歓声を浴び「生きてきて良かった」と吐露したドラマは、劇中とクロスオーバーした感動を覚えた。

 性別も種族も越えて闘い、愛する源蔵。その博愛精神はプロレスラーだから可能な描写でもある。プロレスに関わる者として、とても嬉しい。

■こもとめいこ♂
1969年会津若松生まれ。リングサイドで撮影中にカメラを壊され、椅子を背中に落とされた経験を持つコンバットフォトグラファーでライター。得意ジャンルはアニメ・声優・漫画・プロレス・格闘技・サバゲー等おたく趣味全般。web媒体では週刊ファイト・歌ネットアニメ他で活動中。Instagram

■放送情報
『旗揚! けものみち』
AT-Xにて毎週水曜日22:00から放送
AbemaTVにて毎週 水水曜日23:30から配信
声の出演:小西克幸、関根明良、八木侑紀、櫻庭有紗、稲田徹、末柄里恵、集貝はな、松田健一郎、武虎、小野大輔、雨宮天、葵井歌菜、古賀葵、皆川純子、安元洋貴
原作:暁なつめ
漫画:まったくモー助・夢唄
監督:三浦和也
シリーズ構成:待田堂子
キャラクターデザイン:能海知佳
アニメーション制作:ENGI
製作:けものみち製作委員会
(c)2019 暁なつめ/まったくモー助/夢唄/KADOKAWA/けものみち製作委員会
公式サイト:http://hataage-kemonomichi.com/
公式Twitter:@hatakemoanime

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