2019年の「観逃したままではいけない1本」 異彩を放つミステリー劇『誰もがそれを知っている』

宇野維正の『誰もがそれを知っている』評

 もちろん、これまでのファルハディ作品がそうであったように、本作の最大の見所は「ミステリーの謎解き」にあるわけではない。仮に事件の謎がすべて解けたとしても、男女の恋愛関係における謎、そして家族に横たわる謎と、人間はずっと付き合っていかなくてはいけない。ファルハディの作品はいつも、「きっと安らかな日々なんて死ぬまで訪れることはないだろう」という嫌な置き土産を観る者に残していく。そして、その残酷ではあるものの真摯なメッセージゆえに、ファルハディは信用に値する映画作家であると自分は考えている。実生活において夫婦である役者同士のクルスとバルデムが、本作でそんなファルハディ作品のメインロールを務めているのは痛烈なアイロニーでもあるが、両者とも近作においては屈指の名演をここで披露している。2019年に日本で劇場公開された作品を振り返る際にも、絶対に観逃したままにしておいてはいけない1作であると断言したい。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

■リリース情報
『誰もがそれを知っている』
Blu-ray&DVD発売中
https://worldcinemap.vap.co.jp/contents/post-88.html

【Blu-ray】※本編Disc 1枚
価格:4,800円+税
収録時間:本編133分+特典映像
仕様:片面2層/カラー/リニアPCM/1080p High-Definition アメリカンビスタ/日本語字幕

【DVD】※本編Disc 1枚
価格:3,800円+税
収録時間:本編133分+特典映像
仕様:片面2層/カラー/ドルビーデジタル/アメリカンビスタ/日本語字幕

◆収録特典(Blu-ray、DVD共通)
・キャスト&監督インタビュー集
・予告編

出演:ペネロペ・クルス 、ハビエル・バルデム、リカルド・ダリン
監督・脚本: アスガー・ファルハディ
2018年/スペイン・フランス・イタリア/スペイン語/133分/英題:Everybody Knows/日本語字幕:原田りえ
提供:バップ、ロングライド
発売元:バップ
(c)2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINEMA - UNTITLED FILMS A.I.E.

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