ゲームが可能した、言葉を超えた恋愛描写 ラブストーリーとして観たい『ハイスコアガール』 

 それから一年後の1994年。大野さんがアメリカから帰国する。

 物語はハルオと大野さん、そしてハルオのことが好きな小春の三人の恋愛模様が展開されるのだが、中学生編のポイントは小春のモノローグだろう。ハルオを見ているうちに自分の恋心に気づいていく小春。彼女の切ないモノローグで進んでいく。物語はまるで少女漫画のようで、か細い声で語られる心情はとても切ない。

 視聴者はすでにハルオと大野のゲームを通した深いつながりを知っているので、いずれ大人になったら再会して二人は結ばれるのだろうと漠然と思っている。そんな中、小春という第二のヒロインが現れるのだが、勝ち目はないことはわかっているのに、ハルオに恋心を抱いてしまう小春の姿を延々と見せられるので、視聴者としてはなんとも切なくなってしまう。

 恋愛アニメとして本作が面白いのは、この三人の関係性だろう。考えていることが子供のハルオと、何を考えているのかわからない大野さん、そして心情がダダ漏れの報われない小春の三角関係は、ひたすら理不尽で身悶えする。

 見方を変えると、ハルオにとっては実に都合のいい夢のシチュエーションでもある。ただ、それが嫌味にならないのは、ハルオがバカだけど基本的にすごく良いやつだからだろう。大野さんにとっても小春にとっても、ハルオはゲームという遊びの世界を通して、勉強ばかりの窮屈な日常の外側を見せてくれる存在だ。一方、ハルオにとっては、大野さんと小春は自分の世界を理解してくれる異性である。90年代当時ハルオと同じような学生生活を送っていた劣等生の自分は自分の趣味を理解してくれる同好の士(できればかわいい女の子)を求めていた。『ハイスコアガール』を見ている時に、身悶えするような懐かしさを感じるのは、当時のゲーム文化だけでなく、思春期の自分が抱えていた(大野さんや小春のような)自分の趣味を理解してくれる女の子と恋に落ちたかったという妄想を思い出させてくれるからだ。

 現在は1996年となり、高校生になったハルオたちの姿が描かれている。小春のハルオへの報われない恋心は極限まで達し、いよいよ大野さんに直接対決を挑む。それがゲーム対決になるのが本作ならではの展開だが、台詞がないからこそ大野さんのゲームプレイには彼女の感情が強く現れている。ゲームキャラクターがハルオに話しかけて背中を押してくれる場面が多用されていることからも明らかなように、本作ではゲームプレイの描写自体がハルオたちの心象風景となっている。ゲームが少年少女の内宇宙として心情と重ね合わされているからこそ、言葉を超えた恋愛描写が可能となっているのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
TVアニメ『ハイスコアガール』ROUND 16~(全9話)
TOKYO MX 毎週(金)25:05~
MBS 毎週(金)26:55~
BS11 毎週(金)25:30~
AT-X 毎週(土)21:30~/以降毎話リピート放送:毎週(火)13:30
SBSテレビ(静岡放送) 毎週(木)26:03~(2期のみ全9話)
NETFLIXにて配信中
※放送情報は変更になる可能性がございます。
原作: 押切蓮介
監督: 山川吉樹
シリーズ構成: 浦畑達彦
音楽:下村陽子
アニメーション制作:J.C.STAFF
(c)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガールⅡ製作委員会
公式サイト:http://hi-score-girl.com/

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