『スカーレット』『まんぷく』で可笑しみを生み出す 日本を代表する演技者・イッセー尾形

日本を代表する演技者・イッセー尾形

 もちろん、イッセー尾形が得意とするのはキャラクター性が強い、分かりやすいキャラクターばかりではない。なかでも、2004年に公開された彼の主演映画『トニー滝谷』で演じた素朴で孤独な男の役は、イッセー尾形のキャリア史上最高のものだと筆者は確信している。“自然な演技”と言ってしまうと陳腐だが、あの人物の実在感は生々しく、漏れ出る声、ピクリと痙攣する表情まで、すべてが演技だとは思えなかったのだ。とはいえ、これらも計算上の演技ではあるのだろう。

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 彼の演技に世界中が打ち震えた、『沈黙 -サイレンス-』(2016)での姿も記憶に新しい。巨匠マーティン・スコセッシ監督による本作で演じた井上筑後守は、主人公たちにとって残虐非道な悪役に値するわけだが、その発語、その挙動に多くの者が魅了された。ハリウッド映画であり、かつ時代劇とあって、それら一つひとつの細部にまで、この人物には強いキャラクター性を見出すことができる。『トニー滝谷』では、トニー滝谷という一人の人物にまるで身体を預けるようにして演じているが、一方の『沈黙』では、井上筑後守というキャラクターを造形し、それを演じているように思えるのだ。だからこそ、後者では多少の誇張表現も見受けられるのである。

 また、スコセッシ監督のみならず、ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督の『太陽』(2005)や、台湾のエドワード・ヤン監督による『ヤンヤン 夏の想い出』(2000)などの海外の出演作品もある。いずれも世界の映画史に名を刻む監督たちであり、彼の存在が、日本国内にとどまらず、世界的な評価を得ていることがここから分かる。そして主演映画『漫画誕生』が本日より公開。見る者を惹きつけてやまないイッセー尾形の演技だが、それを微に入り細に入り観察してみることで、彼が“日本を代表する演技者”である事実に気づかされることだろう。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)~2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー
水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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