『ジョーカー』世界的ヒット、『IT/イット』編集版の地上波放送を機に考える、R指定作品の今後

R指定作品は今後どうなる?

 R指定作品におけるマーケットの限定性は、映画業界が懸念するほど深刻ではないのが現状のようだ。実際、『ジョーカー』は巨大映画市場である中国での公開が実現しなかったにも関わらず、国内やメキシコ・日本で多くの収益を取り込んだことでワーナー・ブラザーズの年間売上最高興収を記録、製作予算の10倍以上を回収し、R指定映画として歴代最高の興収記録を樹立した結果となった。

 『ジョーカー』の登場までR指定映画興収ランキングの王座を保持していた『デッドプール』シリーズのライアン・レイノルズは、新記録樹立の報を受け『ジョーカー』のメインビジュアルに、デッド・プール、『マトリックス リローデッド』のネオ、『IT/イット』のペニーワイズ、『パッション』のキリスト、『LOGAN/ローガン』のヒュー・ジャックマン、『ハングオーバー!!』シリーズのザ・ウルフパック、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のミスター・グレイ、テッドと、歴代R指定映画興収ランキングトップ作品に登場したキャラクター名を並べた画像をツイートし、祝福した。

 これらヒット作の多くはここ数年内に公開されたものであり、またそのジャンルが非常に多岐にわたるものであることを考えれば、近年いかに多様な作品がR指定作品にも関わらずヒットを飛ばしているか、ひるがえってはいかに多くの観客がMPAAによる表現規制にとらわれることなく、作り手側の意向を忠実に反映させた作品を求めているかが読みとれる。今や映画シーンにおいてみられるR指定作品の需要とは、かつてのHIP HOPシーンにおいてペアレンタル・アドバイザー(未成年にとって不適切な表現が含まれる内容であることが全米レコード協会によって認定された音楽作品に添付される表示)のロゴがついた作品がむしろ“サグな音源”であると見なされヒットしていた事象に近いのかもしれない。

『デッドプール2』(c)2018Twentieth Century Fox Film Corporation

 公開が予定されている『デッドプール』シリーズ第3作もR指定での製作がアナウンスされており、早くも“R指定作品”王座の次なる行方に注目が集まっていることや、またアメリカ国内作品の他に外国映画のR指定作品においても、韓国映画として初となるカンヌ国際映画祭最高賞を獲得したことで話題となったポン・ジュノ監督作品『パラサイト』がアメリカ国内でネットなどの口コミにより劇場動員数を伸ばしている現状がある。これら観客による表現規制にとらわれない作品に対する需要の高まりは、ヘイズ・コードの時代にみられた基準改正とまではいかないまでも、今後のハリウッドにおけるレーティング・システムを取り巻く映画製作の環境に変化を及ぼすものと見れるだろう。

■菅原 史稀
編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。Twitter

■公開情報
『ジョーカー』
全国公開中
監督・製作・共同脚本:トッド・フィリップス
共同脚本:スコット・シルバー
出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & (c)DC Comics”
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる