知る人ぞ知る状態になってしまっている「Netflix映画の劇場公開」問題を考える

「Netflix映画の劇場公開」問題を一考

 Netflix映画の公開がメジャーの映画館チェーンで上映されないのは、日本だけの問題ではなく、北米も同様のこと。配給と興行の業界構造の違いや、北米の映画館上映は賞レースの規定を満たすためにおこなわれる場合があるなど、複雑な事情も絡むので単純に北米と日本の状況を同一には語れないが、Netflix映画の劇場公開が限定的になっている共通の大きな理由は「映画業界の締め付け」だろう。しかし、映像業界全体の趨勢や、昨年から今年の流れを見れば明らかなように、今後も「Netflix映画の劇場公開」問題が大きくなることはあっても小さくなることはない。北米でも日本でも、今後どこかで大きな構造変化が起こる可能性はあるはずだ。

 ただ、今そこにある状況として自分が気がかりなのは、今年3月の『ROMA/ローマ』も、そしてこの秋すでに公開されている『キング』も『アースクエイクバード』も『アイリッシュマン』も、劇場公開されていること自体があまり大きな話題になっていないこと。配給や宣伝が中抜きされていることで、ほとんどプロモーションがおこなわれないまま劇場公開されるNetflix映画。劇場に足を運んでいるのが能動的な情報収拾力に長けた映画ファン及びキャストのファンに限られているこの現状は、「映画はやっぱり映画館で観たい」という一部の観客の声に応えることになっているだけで、作品の価値や「Netflix映画」というコンテンツのブランド力の向上にあまりつながっているようには見えない。日本のいわゆる「メジャー」な映画界からの協力が見込めないとしても、せっかく劇場公開をするのだったら、それによって作品とNetflixというプラットフォームそのものをより広く効果的にプロモーションする方策があるのではないか?

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

■配信情報
Netflixオリジナル映画『アイリッシュマン』
11月27日(水)独占配信開始
アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて公開中
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:スティーヴン・ザイリアン
原作:チャールズ・ブラント著『I Heard You Paint Houses』
出演:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル
配給:Netflix
2019年/209分/アメリカ

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