中川龍太郎監督が語る『わたしは光をにぎっている』で捉えた時代の変化 「受け入れる人たちの話にしたかった」

『わたしは光をにぎっている』監督が語る

「怒りをただぶつけるだけでは意味がない」

ーー本作では特に後半において、今まで中川監督が語ったような強いメッセージを感じます。ですが、作品全体のトーンは穏やかです。このコントラストは意識的でしたか?

中川:おっしゃる通り、僕は強い怒りを持ってこの映画を作りました。同時に、怒りをただぶつけるだけでは意味がないとも考えていました。これで男性を主人公にしていたら、銭湯に立てこもる話を作っていたと思うんですが(笑)。

ーーそうしなかった理由は?

中川:僕自身が怒りっぽいし、未熟な人間なんですが、そんな愚かな自分を野放しにしたものを人様に見せることに抵抗がありました。『愛の小さな歴史』『走れ、絶望に追いつかれない速さで』の時はまだそういう要素があったと思うんですが、今回はもっと静かに受け入れていかざるを得ない人たちに寄り添うような幅を持たせたかった。多くの人は、僕みたいに声を大にして抗議するのではなくて、それを受け入れていくじゃないですか? 「戦おう」というメッセージをそのまま伝えるのでは、多くの人が取り残されてしまう気がしたから、今回は受け入れる人たちの話にしたかったんです。それは僕にはできないことですし、憧れもあります。

ーーそんな「受け入れる人たち」の中で主人公・澪を演じたのが、松本穂香さんです。松本さんをキャスティングした理由は?

中川:この映画の主人公はあくまで風景なので、風景の中で尖った自意識のある方が出ていると悪目立ちしてしまう恐れがあります。実際、お年寄りの多い田舎や銭湯に浮世離れするような綺麗な人がいたらリアリティが損なわれかねませんが、松本さんだとなぜか不自然さを感じさせないんです。

ーー風景に溶け込むというのは役者としても、求められるものが大きいように感じますが、松本さんとはどのようなやり取りを?

中川:「少女」ではなくて「子供」ーーつまり、性的ではない存在として演じてほしいということは伝えました。自分の性を意識すると自意識が生まれるから、風景と自意識がぶつかってしまう恐れがあります。子供は風景に用意に馴染むじゃないですか? あれは小さいからではなくて、自意識が少ないからだと思います。

ーー本作は松本さん以外にも町の人たちの姿がそれぞれ描かれています。渡辺大知さん演じる映画監督を志す青年・銀次もその一人ですが、これは監督ご自身を投影したキャラクターなのでしょうか?

中川:そうでしょうね。本作では、映画におけるアーカイブという行為の重要性も描いています。その意味で、渡辺さんには失われゆくものを記録する、メタ的存在として出てもらいました。失われゆくものというのは街の風景だけじゃなく、20歳の澪もそうなんです。人というのは常に変わっていくから、20歳の澪と21歳の澪さんは違う人なんです。銀次は、その瞬間しかいない澪を写す記録者としての立ち位置でもありますね。

ーー中川監督はこれまでのインタビューでもアニメからの影響について語っています。本作にはスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーもコメントを寄せていますが、アニメーションからの影響は本作にもありますか?

中川:国内において、実写映画がアニメ作品に苦戦してきた背景の一つに、過酷な現実を活写することの重要性は理解しつつ、同時に、その世界に入りたいと思えるようなぬくもりや憧れを実写映画でうまく表現できてこなかったことが挙げられると思います。まさにスタジオジブリは、その両者のバランスがすごくいいですよね。例えば『おもひでぽろぽろ』や『耳をすませば』は、実はえぐみも内包した物語ですが、同時にあの世界の中に入りたいという憧れも抱かせるものになっています。ハードな現実を描きながらも、世界への憧れを表現することは大切なことであると感じます。

ーー本作を撮り終えたことで、中川監督ご自身で達成感はありますか?

中川:本作の舞台になった銭湯は今月(*取材時は10月)閉店になってしまい、撮影した立石の呑んべえ横丁も取り壊しの話が出ている中で、明日なくなってしまうかもしれない景色をなんとか映像に残せたことへの達成感はあります。あと、これまでは親友の自殺というパーソナルなテーマで作ってきたので、ようやくそこから一歩踏み出して、社会に視点を広げた話を作れたことは嬉しいです。

(取材・文・写真=島田怜於)

■公開情報
『わたしは光をにぎっている』
新宿武蔵野館ほか全国公開中
監督:中川龍太郎
脚本:末木はるみ、中川龍太郎、佐近圭太郎
脚本協力:石井将、角屋拓海
出演:松本穂香、渡辺大知、徳永えり、吉村界人、光石研、樫山文枝
配給:ファントム・フィルム
(c)2019 WIT STUDIO/Tokyo New Cinema
公式サイト:phantom-film.com/watashi_hikari/

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