『スカーレット』は極めて現代的な朝ドラに 『獣になれない私たち』晶に重なる喜美子の苦難

『スカーレット』は極めて現代的な朝ドラに

 喜美子の姿を観て思い出さずにいられなかったのが、野木亜紀子脚本のドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)のヒロイン・晶(新垣結衣)である。有能な晶は、皆に愛され頼られる存在であるために、パワハラ上司や会社の後輩たち、悪気はないけれど晶に依存する人々のために苦労を強いられていた。

 たまに見せる愛嬌のせいでどうにも憎めない、酒ばかり飲んで暴れる借金まみれの父親に、家族思いの穏やかな母親(富田靖子)、まだ小さい妹・百合子(住田萌乃)に、文句ばかりで何もしない妹・直子(桜庭ななみ)は、愛さずにはいられないキャラクターたちだ。しかし、一方で、お金を貯めて学校に通うという自力で掴もうとした夢を諦め、信楽に帰った喜美子が新しく見つけた「絵付け」という希望の光をも手放すことを決意させるほどに、ヒロインの行く手を阻む障害としか言いようがない部分がある。

 そんな喜美子に救いがあるとすれば、幼少期に出会った草間(佐藤隆太)や大阪で出会ったちや子(水野美紀)、大久保(三林京子)たち、彼女が出会ってきた人々の素晴らしさである。読み書きにも興味を持たず、生活の余裕のなさから「将来の夢より今日食べる大根のほうが大事」と言っていた喜美子が「夢を持ちたい、学びたい」と思うようになった。それには、彼女が様々な人々と出会い、外の世界を知ることで視野を広げ、吸収してきたこれまでの過程がある。学ぶこと、知ることの重要性をこのドラマは一貫して示唆してきた。

 だからこそ、39話で風のように信楽にやってきて去っていったちや子が、うっかり涙が滲むほどの希望に見えた。琵琶湖に橋がかかるという「ドキドキワクワクする」未来がくることを示唆し、小さな世界しか知らない、見えていない川原家の三姉妹に、外の広い世界を想像させたのだから。

 貧困、そして、男性社会でガムシャラに働く女性・ちや子が置かれている状況を見るだけで想像に難くない、この時代における女性が働くということに対する抵抗の強さ。これからの喜美子に圧し掛かるだろう問題はどこまでも多い。この優しくも非情な地獄の中で、彼女はどう足掻き、自分のやりたいことに専念するのか。古風でありながら現代的な、極めて斬新で、重要な朝ドラが始まったと言える。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー
水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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