映画『スター☆トゥインクルプリキュア』は大人の心も掴む ダイバーシティと環境問題を扱うその先進性

『スター☆トゥインクルプリキュア』の先進性

 2つ目のテーマは環境問題だ。ユーマの正体は星の子供であり人間の感情に影響を受けやすい。いい影響を受ければ緑が豊かな美しい星に、悪い影響を受ければ死の星になってしまう。敵であるハンター達は希少生物であるユーマを捕らえて高額で売ってしまおうと画策するのだが、その際に「結局は人のやることだ」と2人に語る。これは現実社会の環境問題をほのめかしており、地球を守るのも壊すのも結局は人間の行動の結果である、という意味として受け止められる。

 また映像の美しさも本作のメッセージを支えている。作中では、沖縄やナスカの地上絵、ヤスール火山、イグアスの滝、モアイ像などの世界中のミステリースポットや自然の雄大さを感じられる場所を訪れる。特に印象に残るのはボリビアにあるウユニ塩湖を、ひかるとララ、ユーマが走るシーンだ。空の青さが湖に反射し、まるで空を走っているように感じられる描写となっており、守らなければいけない自然の美しさを感覚的にも伝えてくれる。多様性と地球環境の問題という2つの難しいテーマを真正面から扱いながら、72分に収めていることも高評価の理由の1つだろう。

 自然描写の美しさは映画の見せ場である歌やダンスシーンでも発揮されている。近年の少女向けアニメではダンスや歌を使った演出が多く用いられており、『プリキュア』シリーズでも毎回注目を集めているが、今作は従来のエンドクレジットではなく物語の中核をなす場面で使われている。映画内で紹介された名所を背景にプリキュアたちが踊る姿を見ながら、子供達も体を揺らして楽しんでいる光景が印象的だった。

 テレビシリーズの『スター☆トゥインクルプリキュア』では、前期のエンディングにおいて、ピンクレディの「UFO」の振り付けを連想させるダンスをキャラクター達が踊ったり、『うる星やつら』のオマージュもあった。宇宙や宇宙人に関連した作品へのリスペクトが感じられ、それは劇場版でも健在だ。本作では『ET』などの名作SF映画の影響も感じられつつ、特に強く想起させるのは『超時空要塞マクロス』シリーズだ。宇宙から襲来した異星人との対立やコミュニケーションを経て、武器で戦うだけでなく歌や文化の力で相互理解や融和を図っている『マクロス』シリーズのように、本作も戦うだけではなく、歌やダンスで対立を解決しようとする描写もなされる。

 ダイバーシティを重視する社会では諍いなども起こりやすく、日本だけでなく世界中で大きな議題となっている。中には罵倒を重ねて相手を排除するような動きもあり、そのような情勢に一石を投じる作品も多く誕生し、世界の映画シーンで高い評価を獲得している。

 『プリキュア』シリーズのように女児向けの作品は、そういった注目を集める機会は少ないかもしれない。だが、本作には諍いを対立による解決ではなく、お互いの文化を尊重しながら思いをぶつけ合うことで問題を解決する姿勢がうかがえる。それらは大人向けの作品と同等のメッセージ性を宿しながらも、子ども達にも伝わるように表現されており、その製作の姿勢が多くのファンの心を掴むのだろう。現代社会を鋭く評した2019年を代表する作品の一つであることは間違いなく、今後も更なる傑作を期待してしまうシリーズだ。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』
全国公開中
声の出演:成瀬瑛美、小原好美、安野希世乃、小松未可子、上坂すみれ、木野日菜、吉野裕行
ゲスト声優・映画主題歌歌唱:知念里奈
映画主題歌:「Twinkle Stars」作詞:大森祥子 作曲・編曲:高木 洋 
原作:東堂いづみ
監督:田中裕太
脚本:田中仁
音楽:林ゆうき、橘麻美
総作画監督・キャラクターデザイン:小松こずえ
(c)2019 映画スター☆トゥインクルプリキュア製作委員会
公式サイト:www.precure-movie.com

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