『チェルノブイリ』と『ジョーカー』の深い関係を 「ショーランナー」と「音楽」から掘り下げる

『チェルノブイリ』と『ジョーカー』の関係

 1986年4月26日にソビエト連邦キエフ州のチェルノブイリ原子力発電所で起こった未曽有の事故の現場と、その裏側を5つのエピソードで克明に描いた本作『チェルノブイリ』の作中には、もちろんコメディの要素は基本的にまったくない。なにしろ、物語は現場で事故調査を担当した科学者の自殺で幕を開けるのだ。もしこの極めて陰惨で残酷で悲痛なテレビシリーズにコメディ要素があるとしたら、作中で次から次へと起こる出来事が人道的にも政治的にも映像的にもあまりにも酷すぎて、途中から視聴者がもはや「笑うしかない」ような状況まで追い込まれることだ。トゥマッチな「シリアスさ」において観客を追い込むそのような作品の構造に、「表現が制限されるようになったこの時代、コメディで語れることがなくなってきた」と語る同志フィリップスの『ジョーカー』との類似を指摘することも可能だろう。

(c)2019 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 メイジンは、脚本家仲間であるジョン・オーガストとポッドキャストの人気番組『Scriptnotes』を長年配信している。2011年8月(ちょうど彼が『ハングオーバー!』2作目を手がけていた時期だ)から毎週欠かさず火曜日、現在まで422エピソード(!)を重ねている同番組で彼らは脚本執筆について、そして脚本家から見たリアルタイムの映画界&テレビ界のトレンドや作品自体について、時にはゲストの同業者(『ゲーム・オブ・スローンズ』のデビッド・ベニオフやD・B・ワイス、『ブレイキング・バッド』『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン、『オザーク』のジェイソン・ベイトマンなど)を招いて、長い時は2時間近くにわたって語り合ってきた。また、番組全体がショー仕立てとなって、脚本家としての実験の場にもなることもある。そんな「映画/テレビシリーズ関係者なら必見、でも他に誰が聞いてるの?」な超コアな番組で8年間喋り続けてきたメイジンが辿り着いた、脚本家としての現時点でのロジカルな答えが『チェルノブイリ』の作劇であるならば、本作は単純な「タブーに挑んだ実録スタイルの社会派ドラマ」ではないということになる。

(c)2019 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 実際に『チェルノブイリ』全5エピソードの作劇はいわゆる脚本術の基本セオリーを大きく踏み外したもので、自分が最も驚きと興奮を覚えたポイントもそこにあった。事件当日の経過を『24』のようにリアルタイムで追っていくエピソード1。作品のメインキャラクター3人がようやく正式に登場し、ゴルバチョフとの会議を中心に政治劇としての側面が強調されるエピソード2。メインキャラクターの周辺でKGBが蠢き、スパイ劇の様相を帯びてくるエピソード3。バリー・コーガン演じる新しいキャラクターに焦点が当てられ、事故後の処理を巡って『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ベター・コール・ソウル』のように同時進行で交わることのない複数の物語が進行するエピソード4。事故の責任を巡って法廷劇として幕を閉じるエピソード5。全エピソードの演出をスウェーデン人監督ヨハン・レンクが手がけていることもあって、作品のルックやリズムに統一感は保たれているものの、実はエピソードごとにジャンルが異なるという、かなり大胆なストーリーテリングのテクニックが駆使されているのだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる