ディーン・フジオカは“ロマン”を体現する 『シャーロック』など古典文学原作ドラマにハマる理由

ディーン、古典文学原作ドラマにハマる理由

 『シャーロック』ではバイオリンを弾きながら頭を整理していたディーン。これは原作にもある特技。そういう華麗なアクションが様になる人はなかなかいない。ちなみにボクシングのアクションをする場面もある。これも原作に倣っている。基本的なホームズの特性は、薬物依存以外は誠実に踏襲しているようだ。

 ただ、衣装はいわゆるシャーロック・ホームズの英国紳士ふうなイメージとは少し違う。バイカラーのベストにシャツ、シルエットがふんわりしたパンツにロングコート。なにより特徴的なのは首にまいたボウタイみたいな巻もの(カンバーバッチのマフラーみたいなもの?)。崩しつつ、どこか上品。これが令和の東京の紳士の服装なのかもしれない。撮り方のせいもあるとは思うが、ディーンがスカイツリーの見えるリバーサイドに立つと、東京のダイバーシティ度ががぜん上がって見えるのである。

 この東京をバイクで走るシーンも良い。しかも、相棒ワトソンのポジションである精神科医・若宮潤一(岩田剛典)の運転するバイクに2ケツ(獅子雄が後ろ)だ。若宮に運転させて後ろに乗っているところも貴族っぽいではないか。英国紳士でない分、貴族っぽさでカバーという感じだ。英国紳士っぽさは『相棒』(テレビ朝日系)の紅茶好きな右京さん(水谷豊)にお任せすれば良いのかもしれない。

 また、甘めの顔だちながらクールで感情がよく読めないところが探偵(犯罪コンサルタント)という役どころに合っている(映画『結婚』で演じた結婚詐欺師という役も合っていた)。それでいてお茶目なところもあって、2話ではボイスチェンジャーのようなもので女性の声を出していた。若宮や江藤をからかう絡みなどもやりすぎず、さらっとしているのがまた掴みどころのなさとなって良い。

 こういう俳優、芸能界を見渡してみると、いそうでいないのである。とりわけ昨今の若い俳優はリアリティを重視するあまり、等身大というか一般市民の像を映し出すような役や演技を好む俳優が多い気がする。だから恋愛もの青春もの、現代を舞台にした群像劇などで共感を得る。それはそれで大事なことなのだが、物語にはやっぱり浪漫がほしいときもある。庶民がなかなか近づけないようなロイヤルな空気に浸りたいときが。ディーン・フジオカの良いところはそんな浪漫を感じさせるところだ。舞台、主にミュージカル俳優などは、それこそ浪漫あふれる貴族や王子様を演じているが、映像に出てくると、ともすれば過剰な表現や存在感を面白さとして捉えられてしまいがち。例えば『ルパンの娘』(19年・フジテレビ系)の大貫勇輔や『あいの結婚相談所』(17年・テレビ朝日系)の山崎育三郎のように。それをディーン・フジオカは映像の世界で、リアルな東京というロケーションのなかで、浮遊するような生活感のなさをリアリティもって演じてみせる。しかも自分の歌までバックに流しながら。それはなかなか凄いことで、ドラマ主演が引きも切らない理由もナットクなのだ。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■放送情報
『シャーロック』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、山田真歩、ゆうたろう、佐々木蔵之介ほか
原作:アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ』シリーズ
脚本:井上由美子
プロデュース:太田大
演出:西谷弘
制作・著作:フジテレビ第一制作室
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/sherlock/

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