早くも興収20億突破 『ジョーカー』現象、4つの理由

『ジョーカー』現象、4つの理由

3 作品の独立性

 これは特に、DC作品でこれまで突出したヒットが出ていない日本での成功の大きな要因だろう。トッド・フィリップス監督は、本作が他のDC作品とユニバース的に繋がることも、続編の構想も、現時点で完全に否定している。特に前者に関しては1981年という作品の時代設定の時点で可能性がほぼ閉じられていて(今後、DC作品が本作の影響下に作られる可能性はあるが)、ワーナーのDC作品でお馴染みのオープニングのロゴも本作には入っていない。過去に数々の名作が受賞してきたヴェネチア国際映画祭での最優秀作品賞(金獅子賞)受賞も、作品の独立性を広く知らしめることに貢献したに違いない。また、そもそも「ジョーカー」という固有名詞自体がアメコミのカルチャーを離れて一般的に共有されている名詞であることも、「スーパーヒーロー映画を観る」という心理的な障壁を軽減しているのではないだろうか。名は体を表すかのように、『ジョーカー』は観る人によって「役」を変える万能の作品で、本作はそこからアメコミやDC映画でお馴染みのあの「ジョーカー」に思いを巡らすことも、あるいはそれとは関係なく(もちろん少なからず関係はあるのだが)一人の男の物語として思いを巡らすことも可能なのだ。

4 女性からの支持

 日本での公開初週に配給のワーナーが発表した観客の男女比は6:4。名目上は一応DCのスーパーヒーロー映画であること、過激な暴力描写が危惧されるR15指定(実際の描写はそこまで過激ではなく、主にモラル面における危険性によるものだろう)作品であることをふまえれば、これは想定を大きく上回る女性客の比率と言っていいだろう。公開後、筆者は複数回ラジオに呼ばれて本作について語っているが、そこでも毎回話題になるのは女性からの支持について。限られたサンプルではあるものの、ある女性DJは「同性の友人の多くが『ジョーカー』を観に行っている。社会や会社への不満をジョーカーが代弁してくれているからかもしれない」といった趣旨の発言をしていた。もしそうだとすると穏やかではない話だが、ある種の代償行為として『ジョーカー』への支持が広がっているというその見解が的を射ているとするならば、「作品が一定の水準以上の大ヒットになるためには女性からの人気が不可欠」という日本の映画興行の鉄則通りということで、まだまだこれからも『ジョーカー』現象は続くかもしれない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

■公開情報
『ジョーカー』
全国公開中
監督・製作・共同脚本:トッド・フィリップス
共同脚本:スコット・シルバー
出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & (c)DC Comics”
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/

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