『ロング・ウェイ・ノース』『ディリリとパリの時間旅行』……EU圏アニメーションの特徴とは?

EU圏アニメーションの特徴とは?

 『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』を見ていると高畑勲、宮崎駿作品や東映動画作品を見ているような感覚を受ける。日本のアニメーション文化が成熟する前に参考にされたヨーロッパの名作アニメーションたちが、技術を進歩させて現代に生まれ変わったかのようであり、日本のアニメが忘れてしまったかもしれないものを思い出させてくれる作品だ。

『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』(c)2015 SACREBLEU PRODUCTIONS / MAYBE MOVIES / 2 MINUTES / FRANCE 3 CINEMA / NORLUM

 この2作品ともに、現代に重要な、女性の活躍を1つのテーマとして描いていることも特筆すべき点だ。オスロ監督は幼少期をアフリカで過ごした影響もあり『キリクと魔女』においてもアフリカの文化をモチーフとしている。『ディリリとパリの時間旅行』ではニューカレドニアにルーツを持つ少女を主人公とし、パリの街を冒険しながら男性支配団を追う姿は人種や民族の多様性と、女性の活躍する社会の実現を願った作品と受け止められる。また『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』も貴族社会で成長した少女が、家長である父親や多くの大人の反対を振り切り、一人で祖父を探しにいく。過去の慣習にとらわれることなく、自分の判断で大きな世界に飛び出していく力強い姿が印象に残る。

『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』(c)2015 SACREBLEU PRODUCTIONS / MAYBE MOVIES / 2 MINUTES / FRANCE 3 CINEMA / NORLUM

 この社会性のある作風は、フランスやヨーロッパのアニメーション映画の特徴と言えるだろう。2018年に公開されたスイス・フランスの合作作品であるパペットアニメーション『ぼくの名前はズッキーニ』では両親と離れなければいけない事情を抱えた子供たちが児童保護施設内での生活を通して友情や愛情を育む姿が描かれている。

 また表現手法も多彩だ。アメリカの場合はCGアニメーション、日本の場合はCGに加えて手書きのアニメーションが主流となっているが、フランスやヨーロッパのアニメーションは必ずしもそうとは言えない。オスロ監督はCGや影絵など様々な手法に挑戦しており、1作ごとに映像面では作風が異なっている。他にも『ぼくの名前はズッキーニ』のようなパペットアニメーション、またカートゥンのようなアニメーションの持つ動きの快楽性を重視したシルヴァン・ショメ監督の『ベルヴィル・ランデブー』や、日本でもスタジオジブリが製作をに参加し東宝が配給したことで大きな話題を呼んだ『レッドタートル ある島の物語』はセリフを一切使わずに動きや映像だけで哲学的なメッセージを伝えている。

『ぼくの名前はズッキーニ』(c)RITA PRODUCTIONS / BLUE SPIRIT PRODUCTIONS / GEBEKA FILMS / KNM / RTS SSR / FRANCE 3 CINEMA / RHONES-ALPES CINEMA / HELIUM FILMS / 2016

 一言にフランスのアニメーションといっても象徴的な映像表現手法が思い浮かばないほどの多様性に満ちている。またEUに話を広げれば、ゴッホの特徴的な油絵の画風をそのままにアニメーションとして動かした『ゴッホ 最期の手紙』や、鉛筆で描かれたような映像が楽しめるイギリスとルクセンブルグの合作アニメーション『エセルとアーネスト』などもある。アニメーションは“anima(生命)”を語源としており、無機物を動かして生きているように見せる手法である。アニメーションの手法を1つに限定することなく、その可能性を広げる表現の数々に新鮮な感動を味わうことができる。

 2019年下半期は、他にも『アヴリルと奇妙な世界』や、中国アニメーションの『羅小黒戦記』が特集上映内で公開され、今後も、台湾のアニメーションである『幸福路のチー』、Netflixにて配信されていたものの劇場公開は初となる『ブレッドウィナー/生きのびるために』などの多くの海外製アニメーションが公開される。世界のアニメーションの幅広さと新鮮な感動をぜひ劇場で体感してほしい。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
全国公開中
監督:レミ・シャイエ
脚本:クレール・パオレッティ パトリシア・バレイクス
音楽:ジョナサン・モラリ
2015年/81分/フランス・デンマーク合作
原題:Tout en haut du monde
配給:リスキット、太秦
(c)2015 SACREBLEU PRODUCTIONS / MAYBE MOVIES / 2 MINUTES / FRANCE 3 CINEMA / NORLUM

『ディリリとパリの時間旅行』
全国公開中
監督:ミッシェル・オスロ
音楽:ガブリエル・ヤレド
声の出演:プリュネル・シャルル=アンブロン、エンゾ・ラツィト、ナタリー・デセイ
配給:チャイルド・フィルム
後援:フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
2018年/フランス・ベルギー・ドイツ/フランス語/94分/ヴィスタサイズ/カラー/5.1ch/日本語字幕:手束紀子
(c)2018 NORD-OUEST FILMS – STUDIO O – ARTE FRANCE CINEMA – MARS FILMS – WILD BUNCH – MAC GUFF LIGNE – ARTEMIS PRODUCTIONS – SENATOR FILM PRODUKTION
公式サイト:child-film.com/dilili

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