戸次重幸の術中にハマること間違いなし! 『MONSTER MATES』が描く“人間のリアル”

戸次重幸の術中にハマること間違いなし

群れをなすことで安心し、弱い者を見つけて残虐化する人間心理

 さらに、もうひとつの魅力が、二転三転する巧妙なストーリーテリングだ。突然、自分が不老不死だと知らされるというオカルト的SFの世界から、話が進むにつれて事態は思わぬ方向へ。まるで化かし合いのように、キャラクターの見え方も、事の真相も姿を変えていく。観客は、急流に翻弄されるように、先の読めない展開に身を任せるだけ。しかもそれがエンタメ的なハラハラ感ではなく、じっとりと喉の奥に苦味が広がるような不穏さとむごたらしさを通奏低音にしているところがたまらない。

 この『MONSTER MATES』は決して奇想天外なSF作品というだけではない。むしろフィクション性の高い題材を借りながら、描いているのは人間のリアル。特殊な状況下に置かれたとき、人はどれだけ強欲になるのか。人はどれだけ身勝手になるのか。問いという名の銃口を突きつけられているのは、観客の方なのかもしれない。

 劇中、ヤクザの桐谷のことを「弱い人間が弱いまま群れをつくり、強さを装っている。まるで大きな魚に食べられまいと群れをつくる小魚だ」とQが指摘する。けれど、「小魚」なのは、桐谷だけだろうか。自分ひとりでは何もできないのに、集団になると気が大きくなり、凶暴性を増す。どれだけ自分がみじめで浅ましくても、自分と同じような人間がいると安心し、何なら自分より弱い人間を見ると優越感を覚え、残虐な気持ちになる。自分のことを、そんな人間じゃないと言い切れる人が、どれくらいいるだろうか。少なくとも、僕は言えない。「化け物」は、そんな人間の狡さや愚かさのことを言うのかもしれない。

 タイトルに含まれている「MATES」は「仲間」。その愛らしい響きと、温かい意味合いとは対照的に、この作品の中で用いられる「仲間」はどこまでも利己的で悪辣だ。その皮肉さに、この作品の面白さを見た。

 戸次の演出は、観劇慣れしていない層にも楽しんでもらえるよう、場面の雰囲気ごとに照明を変え、視覚的に飽きさせず、見どころを明確にしている。また、映像のようにアップを使えない舞台の弱点を逆手にとり、劇中使用されるスマホの画面や写真などは映像で表示するなど、どこまでも見やすいつくりを貫いている。「演劇はちょっと難しそう」というイメージはいまだに根強く残っているが、戸次のつくる舞台は決して観客を置き去りにしない。戸次と、そしてTEAM NACSの舞台がこれだけたくさんの人に愛されているのは、こうしたホスピタリティも理由のひとつだろう。

 人間の持つ悪意の禍々しさにぞくりとするラストを経て、もう一度、DVDを冒頭から再生した。すると、序盤に鮮魚店店主の今野が楽しそうに魚をさばいている姿が目にとまった。最初に観たときは何とも思わなかったこの何でもない日常の様子に肌が粟立つのは、戸次の術中にはめられた証拠。狂気は、いつも日常にある。僕たちは、ある日突然「化け物」になり得るのだ。

『MONSTER MATES』ファン必見の貴重なオフショット映像&副音声を収録!

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が1/30より発売。Twitter:@fudge_2002

■リリース情報
『MONSTER MATES』
Blu-ray&DVD、発売中
Blu-ray:4,980円(税別)
DVD:3,980円(税別)
特典映像:メイキング 封入特典:ステッカー
初回生産限定:スリーブケース(藤田和日郎先生描き下ろしメインビジュアル)

作・演出:戸次重幸
出演:本郷奏多、青柳翔、前野朋哉、戸次重幸、吉沢悠
美術:升平香織 照明:吉川ひろ子 音楽:NAOTO 音響:山本浩一
映像:久保満 映像制作:峰村潮 イラスト:高尾裕司
衣装:神波憲人 ヘアメイク:諸橋みゆき
演出助手:黒岩司 アクション指導:坂口拓
舞台監督:津田光正、荒智司
宣伝美術:吉澤正美 制作:岩田雄二
エグゼクティブプロデュサー:伊藤亜由美、荒木宏幸
プロデューサー:武藤諒、下井健一、村部吉宣
発売・販売:アミューズソフト
(c)CREATIVE OFFICE CUE / AMUSE
公式サイト:https://www.amuse-s-e.co.jp/title/monster-mates/

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