『天気の子』はアカデミー賞を受賞できるのか? これまでの傾向とほか候補作品から可能性を探る

『天気の子』はアカデミー賞を受賞できるか?

 2018年は「独走」の『ROMA/ローマ』(南米)を筆頭に、ポーランドとドイツ(ヨーロッパ)、レバノン(中東)、日本(アジア)。2017年は「独走」と呼べる作品が第一次で落選したため次点のような『ザ・スクエア 思いやりの聖域』を筆頭にロシアとハンガリーのヨーロッパ3本とレバノン(中東)、チリ(南米)。2016年も「独走」のドイツにスウェーデンとデンマークが加わり、イラン(中東)とオーストラリア(オセアニア)。その前もヨーロッパ3本+中東+南米、その前もヨーロッパ&ロシアで3本+アフリカ+南米、ヨーロッパ3本+中東+アジア、ヨーロッパ3本+南米+カナダ。2011年には「独走」枠がイラン映画で同じ中東のイスラエルが加わり、ヨーロッパ2本とカナダで構成されていたり、2010年には「独走」のデンマークを含むヨーロッパ2本にカナダ+メキシコ+アルジェリア(アフリカ)といった例外的なパターンも見受けられるが、概ねヨーロッパ以外の地域はざっと括られて各1作品という形になりやすい。

Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』(Netflixにて、独占配信中)

 また、作品の内容に目を向けてみると、これは一概に判断できないほど多様性を極めている。民族問題や社会問題、国際的な課題はもちろんのこと、LGBTを扱った作品からスピリチュアルな作品、極私的なファミリームービーからサスペンス映画まであまりにも多様で掴みどころがない。強いて言うならば、良くも悪くも“その国らしさ”が垣間見える作品が好まれると言ったところだろうか。『おくりびと』や『たそがれ清兵衛』を例に挙げるなら、前者は日本独特の死生観を物語り、後者は同じ年に『ラスト・サムライ』が公開されたこともあって“侍”という日本文化への興味が高まっていた時期でもある。そしてもうひとつ、今回忘れてはならないのは「実写映画」と「アニメーション映画」という大きな違いである。

 「外国語映画賞」でアニメーション映画がノミネートされたことは、これまで1度しかない。それは『おくりびと』の年にイスラエルから出品されたアリ・フォルマン監督の『戦場でワルツを』だ。レバノン内戦を題材に、関係者の証言をアニメーションで再現し、さらにインタビューをアニメーションで映すという異色な構造の同作は、アニメーション映画であると同時にドキュメンタリー映画という側面も備えていた。ちなみに同作は同じ年の長編アニメーション賞にもエントリーしていたが、その年は同賞のエントリーが少なくノミネート枠が3枠という激戦になり、あえなく落選となっている。また、3年前に長編アニメーション賞にノミネートされている『ぼくの名前はズッキーニ』も、スイス代表として外国語映画賞のショートリストまで駒を進めている。

 こうした点を踏まえると、『天気の子』が「国際長編映画賞」にノミネートされる可能性は極めて低いと言わざるを得ない。この部門に入るアニメーション映画には、純然としたアニメーション表現を超えたプラスアルファが必要とされること、そして“アジア”という枠で見ると今年はカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した『パラサイト 半地下の家族』が韓国映画初のノミネートという悲願を叶える可能性の方が圧倒的に高いからである。また気象を軸にした環境問題や貧困問題というビビッドなテーマを携えているが、そこに海外から見てもわかる“日本らしさ”があるかと言われれば正直難しいところで、いわゆる“セカイ系”の作品は海外でも人気が高いが、今年でなくてもいいという見方をされてしまいかねない。この部門で輝く可能性があるとしたら、前述の『パラサイト』が前哨戦を独走することでアジア映画への熱視線を集めること、そして昨年の『万引き家族』で生まれた日本映画への熱量が維持されていることのどちらかであろう(現にレバノンが2年連続でノミネートされていたり、近年デンマーク映画のノミネートが多いなど、流行りのように一定期間に何度もノミネートされる国が存在するのがこの部門の特徴のひとつだ)。

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