『アド・アストラ』初登場3位 国内映画興行におけるSF映画の可能性と限界

国内映画興行におけるSF映画の可能性と限界

 ここに挙げた作品で、日本で興収30億円を突破したのは『ゼロ・グラビティ』(32.3億円)と『オデッセイ』(35.4億円)の2作品のみ。他は、20億円台はおろか10億円台後半(興収15億円以上)をクリアした作品もなく、ほとんどの作品は10億円にも届いていない。SF映画全盛の80年代を劇場で体験してきた一人としてはつい嘆きたくもなるが、現実として、現在の日本で大作SF映画はいくら当たっても興収35億円あたりが上限で、それも数年に1本出るかどうか、ということがわかる。

 『アド・アストラ』の初動成績、及び賛否にはっきり分かれている日本の観客の評価をふまえると(ちなみに自分は「絶賛」の立場だ)、興収10億のラインは狙えるものの、10億台後半にはまず届かないだろうという情勢。近作でいうと、『インターステラー』、『トゥモローランド』、『ブレードランナー 2049』あたりと同程度ということになる。これは、前述した作品内容をふまえると、やはり健闘と言っていいのではないだろうか。製作費がかかるわりには、大ヒットが出にくい現在のSF映画の置かれている状況は、日本だけでなく世界的に厳しいものとなっている。ましてや、『アド・アストラ』のように(その才能は突出しているものの)あまり知名度のない監督によるオリジナル脚本の新作は、もはやその存在自体が奇跡と言っていい。実際、本作もアメリカの20世紀フォックス本社がディズニーの傘下になったことも影響して、本国で公開が8ヵ月以上先送りになるという不遇な扱いを受けてきた(もし撮影のタイミングがもう少し後ろにズレていたら、ディズニーによって製作がキャンセルされていたかもしれない)。近年はNetflixが積極的にSF作品を作っているが、やはりSF作品は大きなスクリーンで観たいもの。ジャンルのファンとしては、できるかぎりの応援をするしかない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

■公開情報
『アド・アストラ』
全国公開中
監督:ジェームズ・グレイ
製作:ブラッド・ピットほか
脚本:ジェームズ・グレイ&イーサン・グロス
出演:ブラッド・ピット、トミー・リー・ジョーンズ、ルース・ネッガ、リヴ・タイラー、ドナルド・サザーランド
配給:20世紀フォックス映画
(c)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/adastra/index.html

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