『なつぞら』ヒロイン・なつの埋まらない孤独 視聴者の話題に上がった言動を振り返る

『なつぞら』なつの埋まらない孤独

 また、なつについてときどき指摘される「ドライさ」の問題。一つは天陽が死んだときにすぐに会いに行かなかったこと。また、途中まで妹のことを思い出す場面は全くなかったのに、上京後に唐突に思い出し、必死で探し始め、暗く沈んだ様子を見せたこと。さらに9月17日放送分の妹が作った両親の「天丼」の味についても、母親の存在はこれまで全く思い出されていなかったことなど、ところどころで「薄情」という指摘がされる。

 もちろん描かれていない場面で心配したり、思い悩んだりしているのだろうが、なつには何かと言葉足らずな面がある。実はこれは「お礼を言わない」問題と同じで、なつをよく知らない者(視聴者)からすると不思議に思える部分もある。

 しかし、このドライさは、幼少時のなつに「よう言った! それでこそ赤の他人じゃ!」と言い放った泰樹おんじ(草刈正雄)にも通じる部分があるのではないか。

 根っこの部分に温かさを持ちつつも、ベタベタしない。他者を自分の尺度で「かわいそう」などと決めつけず、一人一人が自分の足で立ち、自分の力で道を切り開いていくことを示す「開拓者精神」によるものなのかもしれない(※とはいえ、泰樹はなつには常にデレデレだったわけだが)。

 そして、なつの性格に対する批判として一番多いのは、なつが常に「周りに甘やかされてばかり」「みんなに助けられて順風満帆にいきすぎ」という指摘。

 確かに柴田家では実の孫たちよりも泰樹に溺愛されていたし、アニメーターとしては周りが常に助けてくれたり評価してくれたりしていたし、子育てでは同じ女性アニメーターだった茜(渡辺麻友)が、自身は仕事を辞めたのに、なつの娘・優を引き取って世話をしてくれるし……と、本当に周囲の人々に恵まれている。しかも、いずれの場合も、なつが誰かに頭を下げてお願いしたり、甘えたり、頼っていたりするわけではない。それが一部視聴者には「ご都合主義」に見え、「姫」などとも言われる。

 でも、実はこれこそが孤独のリアルなのではないかとも思う。戦災孤児であったことから、幼少期に嘘をついたり、人の顔色を見たりして生きてきたなつは、たくましさと共に孤独を常に抱え、完全に誰かに寄り掛かることができない。

 結果的には、夫が家事・育児をやってくれるし、職場でも周りに助けられてばかりなのに、自分からはSOSを出せない。いつも必死で、一人で立とうとする。そして、「SOS」が出せない人は、誰かに甘えたくない、自分の力で何とかしたいと思っているから、ひとに助けられたときに必要以上に罪悪感を抱いたり、バツの悪さを感じたりしてしまって、その思いが先立ち、素直にお礼が言えないのだ。

 しかし、逆に、そういう人だとわかるからこそ、周りは心配になるし、頼まれてもいないのに手を貸したくなる。こういう人、実は周りにもいないだろうか。

 人に素直に「助けて」を言える人と「ありがとう」を言える人は、実は周りを信じられる人、心が満たされた人ではないかと思う。そういう意味で、なつはいつも空虚感を抱えている。

 そして、それを埋めるために「自分がやりたいこと=アニメーション」に走っているわけで、それが自分勝手に見えるところはあるのかもしれない。

 ワガママ、自分勝手に見えて、実はこの上なく孤独を抱えたヒロイン・なつ。仕事も成功し、家庭も手に入れ、それでも埋まらない孤独が満たされる日は来るのだろうか。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮、清原翔/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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