『だから私は推しました』“アイドル”題材の不穏なミステリードラマへ 嘘をついているのは誰?

『だから私は推しました』嘘ついているのは誰?

 と、がっちり攻めた内容で、マイナーなアイドルとオタクの関係、オタク同士のコミュニティ、アイドルたちの経済事情、犯罪スレスレのオタク像、アイドルグループ内の軋轢等、物凄い濃度でストーリーが展開するのだが、これらの世界観を成立させているのが綿密な脚本を支える細かすぎるスタッフワークだ。

 サニサイの楽曲や衣裳もすべてドラマのために新たに作られ、彼女たちのライブ会場で売られるグッズも手が込んでいる。また、ハナの部屋に貼られたバイトのシフト表には「安倍、矢口、石川、福田、道重」といった「モーニング娘。」メンバーの名前が記載され、マネージャー名は「中澤」。

 また、SNSで比較的早い段階から指摘されていた通り、ハナのSHOWROOM(動画配信サービス)の常連視聴者、スイカちゃんが瓜田のアカウントであったり(スイカを漢字にすると西瓜)、事件当日、瓜田が押す台車に置かれた段ボールに書かれている文字が「CON-FINE-MENT+87EVER」=「87(ハナ)を拉致する」だったりと、そこかしこに伏線が張られている。

 事件の目撃者として事情を聴かれる女性(安藤サクラ)がいる警察署内の棚には「まんぷくラーメン」の段ボールが置かれ、サニサイのセンター、花梨(松田るか)と花梨のオタとしてライブを盛り上げる小豆沢(細田善彦)が階段に座って食べているカップ麺も「まんぷくヌードル」。これは言うまでもなくNHKの前期朝ドラ『まんぷく』にかけての遊び心。萬平さん、福子、良かったね。まんぷく食品は令和の世でもメジャーだよ。

 女性が女性を“推す”ことでありがちなガチ恋モードを排した展開、詳細な取材を基に立ち上げた地下アイドルたちのリアル、過去の清算、そして細かく散りばめられたミステリーの要素。これらが混在し、練り上げられた脚本、斬新な演出と映像、フレッシュなキャストの相乗効果により、SNSを中心にさまざまな世代で盛り上がる『だから私は推しました』。

 本当に瓜田を“押した”のは誰で、誰がどんな嘘を吐いているのか。サニサイの解散ライブでなにが語られるのか。そしてハナが病院から配信していると語った動画は事実だったのか。

 今期、気合いを入れて“推した”ドラマの結末をしっかり見届けたいと思う。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
よるドラ『だから私は推しました』
NHK総合にて、毎週土曜23:30〜23:59放送(全8回)
出演:桜井ユキ、白石聖、細田善彦、松田るか、笠原秀幸、田中珠里、松川星、天木じゅん、澤部佑、村杉蝉之介ほか
作:森下佳子
音楽:蔡忠浩(bonobos)
制作統括:三鬼一希
プロデューサー:高橋優香子
演出:保坂慶太、姜暎樹、渡邊良雄
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/doruota/
写真提供=NHK

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