伊藤沙莉、“集団”の中でこそ真価を発揮 『これは経費で落ちません!』で理想の後輩役に

伊藤沙莉は現代人の代弁者に

 そしてなにより、集団の中にいる伊藤沙莉ほど、なくてはならない存在はいない。その集団自体にリアリティとユーモアをプラスする。

 山田孝之がAV監督・村西とおるを演じるドラマ『全裸監督』(Netflix)においても彼女は光っていた。村西の会社における男所帯の紅一点を演じる。躊躇することなく男優に前張りをつけたり小道具の準備を指揮したりと、テキパキと仕事するかっこよさを見せつつ、誰よりも女優思い、仲間思いの優しさを持っている。彼女の存在がなければ、アダルトビデオ製作の黎明期における男たちの高揚の裏で、人生を狂わされた女優たちの一時の高揚とその後の悲劇に対する批評性はもっと軽いものになってしまっただろう。

 そして、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)である。伊藤が演じた松任谷は、『これは経費で落ちません!』の真夕と「憎めない天真爛漫キャラ」という意味では共通する。ただ、松任谷は仕事ができないだけでなく、自分のできなさ具合に開き直り努力をせず、新垣結衣演じるヒロイン・晶に負担をかけ続ける困った後輩でもあった。それでいて、晶の思いだけでなく多くの女性の思いを代弁するかのような言葉、つまりはドラマの核心となる言葉をガツンとぶつける重要な役柄でもある。

 伊藤沙莉の魅力は、多面性にある。愛くるしい笑顔の裏に面倒くささや逞しさがある。でもそれを嫌う人は誰もいないだろう。それが人間誰もが持つ複雑さだからだ。『けもなれ』の松任谷や『獣道』のヒロインがそうだったように。

 彼女の特徴でもあるハスキーボイスは、いつも、その作品の思いを代弁するような、現代を生きる私たちの言葉を代弁するかのような言葉を吐き出す。だから、彼女が登場するドラマや映画から目を離すことができないのだろう。彼女は、登場人物の誰より視聴者の近くにいる。

 本日放送の『これは経理で落ちません!』では、真夕に何かしらの疑惑が浮上するようだ。今夜の森若さんはどう解決するのだろうか。ドラマのことではあるが、心から応援している。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
ドラマ10『これは経費で落ちません!』
NHK総合にて、毎週金曜22:00〜22:49放送(連続10回)
出演:多部未華子、重岡大毅(ジャニーズWEST)、伊藤沙莉、桐山漣、松井愛莉、韓英恵
角田晃広、片瀬那奈、モロ師岡、平山浩行、吹越満ほか
原作:青木祐子
脚本:渡辺千穂、藤平久子、蛭田直美
音楽:安田寿之
主題歌:阿部真央
制作統括:管原浩(NHK)、坂下哲也(AX-ON)
演出:中島悟、松永洋一
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/drama10/keihi/

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