多数のキャラクターの人生を描き分ける 『なつぞら』脚本家・大森寿美男の作家性

『なつぞら』大森寿美男の作家性

 また、なつの幼なじみ・天陽(吉沢亮)も、やっぱりベタじゃない。

 天陽はなつに絵を描く喜びを教え、アニメの道に進むきっかけを与えてくれた人だが、なつの上京後、別の女性とあっさり結婚してしまう。

 その過程を見せないのも驚きだったが、坂場(中川大志)と結婚することを決めたなつが再会したときの天陽の姿には、衝撃を受けた。

 田舎っぽい妻(大原櫻子)と共に現れた天陽の、気の抜けた感じのシャツや、心なしか少しふっくらした身体、ボサボサの寝ぐせがついた髪には、「普通の幸せな生活」が滲み出ていた。

 その姿からは、なつが知らない生活・世界がだいぶ進んでいること、すでに別のステージに至っていそうな様子が見てとれたからだ。「100年の恋も冷める」どころか、あまりの気負いのなさに、女性側が勝手に敗北感を覚えてしまう展開ではなかっただろうか。

 また、雪次郎(山田裕貴)の人生も、ままならない。一念発起し、一度は家業の菓子職人の道を捨て、俳優の道へ進むものも、夢を諦めて実家に戻り、家業を継ぐ。その一方で、幼少時からずっと好きだった夕見子との突然の結婚を果たす。この紆余曲折の波乱万丈さは、ある意味、2000年代の朝ドラヒロイン的でもある。

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