『劇場版おっさんずラブ』はドラマの“優しい世界”がそのままに 再び歩き出した春田と牧たち

 平日の午後、また映画館に行きました。初日とは違って、そこにいたのはいわゆる「OL民」っぽい人たちだけではなく、文字通り「老若男女」でした。白髪の老夫婦、ひとりで来ている中年男性、ポップコーンを抱えてニコニコ待っている小学生とお母さん、制服の高校生たち、デートらしい若いカップル、中学生くらいの男の子たちのグループ。ありとあらゆるタイプの人たちで、夏休み終わりの映画館はいっぱいでした。

 恥ずかしい話なんですが、その光景を見て、ちょっと泣いてしまいました。視聴率一桁の深夜ドラマ。周りの人は誰も見ていなくて、それでも「『おっさんずラブ』が好きだ!」とツイートしているうちに、そんな人たちの声が集まり、ツイッターでのトレンド世界一になり、とうとうこうして映画になって、たくさんの人たちに愛されている。それがほんとうにうれしくて。

 上映中は何度も笑い声がひびき、シリアスなシーンではみんな静まり返り、ラストでは息をのむ音がする。

 映画が終わって出てくる人たちは、ほとんどが笑顔、何人かは目元をハンカチでおさえ、連れがいる人たちは感想を言い合っている。

 家でドラマを見るのと違って、周りにいる人たちと同時に『おっさんずラブ』の世界を楽しめる。楽しんでいる様子を感じて、また自分も楽しくなる。そこが映画のいいところですよね。映画館という空間で楽しさが増幅されていく。ドラマ見ながらツイッターでみんなと感想を言い合うのも楽しかったけれど、全然違う喜びが映画館にはありました。

 ホールでのんびりと余韻をかみしめていたら、小さな口笛が聞こえ、そちらに目を向けると、最初に見かけた男の子たちのグループのひとりでした。彼が歩きながら吹いていたのは「春」。春田と牧、ふたりのシーンでよくかかる、あのリコーダーの曲です。軽やかに「春」のメロディーを吹きながら、彼は友だちと去っていきました。

 『劇場版おっさんずラブ』はどんな映画かを、説明するのはちょっと難しい。ラブストーリーかもしれないし、アクションもすごい。働く人たちへのエールでもあるし、サスペンス風味もあり、スペクタクル要素もある。何度も声をあげて大笑いできるコメディ。それでいてさりげなく、社会の問題も投げかけてくる。ジャンル分けができないんですよね。

 ドラマを知らない人にどう言えばいいのかな、って考えていたんですが……「見終わった後、口笛を吹きながらそれぞれの道を歩きたくなる映画ですよ」でもいいかな、と彼を見て思いました。

■渡辺裕子(わたなべひろこ)
TVドラマ好きイラストレーター。「月刊ローチケHMV」などで、コラム連載中。
ツイッター:https://twitter.com/satohi11

■公開情報
『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』
全国東宝系にて公開中
出演:田中圭、林遣都、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉、沢村一樹、志尊淳、眞島秀和、大塚寧々、吉田鋼太郎
監督:瑠東東一郎
脚本:徳尾浩司
主題歌:スキマスイッチ「Revival」(AUGUSTA RECORDS/UNIVERSAL MUSIC LLC)
(c)2019「劇場版おっさんずラブ」製作委員会
公式サイト:ossanslove-the-movie.com

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