『劇場版おっさんずラブ』は実写BL映画の代表格に ド派手な設定の根底にある普遍的なテーマ

『劇場版おっさんずラブ』の普遍的なテーマ

 この優しいだけじゃない、辛いことだらけの世界で、それでも優しさと愛、ただそれだけをすくい取って、目一杯の笑いと共に、私たちに差し出してくれる。『おっさんずラブ』の世界を心に宿すだけで、明日から人生を生き抜いていけるような力さえ与えてくれる。どうして『おっさんずラブ』は、ここまで多くの観客の感情を強く動かすことができるのか。それはやはり、一つにはこの上ないないほど素晴らしい役者陣の魅力によるものが大きいだろう。林遣都の憂いを湛えたつぶらな瞳は、言葉の代わりにその切なさを物語るし、消え入りそうな佇まいや繊細な仕草には、つい背中を押したくなってしまう。

 そしてなにより、モテまくることに説得力を持たせなければいけない、“はるたん”こと春田を演じた田中圭の、天才的なまでのまったく邪気を感じさせない真っ直ぐすぎる天真爛漫さ。田中圭と林遣都という役者が、春田創一と牧凌太という架空であるはずの人物を全身全霊で生きるからこそ、この世界のどこかに二人が本当に存在していると信じることさえできる。自己犠牲に走ってしまいがちでどうしても逃げ腰になってしまう牧と、お人好しでとっさに目の前の人の想いを受け止めてしまいがちな春田の、あまりにも対照的で危うい関係が、それぞれの人間としての成長と同時に、また少し強くなる。映画ではそんな絆や成長も、確かに描かれている。ラストシーンで二人の上に映し出された青空は、私たちが彼らの幸せなその後を想像するためのキャンバスのごとく、どこまでも大きく広がっていた。

■児玉美月
大学院ではトランスジェンダー映画についての修士論文を執筆。
好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter

■公開情報
『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』
全国東宝系にて公開中
出演:田中圭、林遣都、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉、沢村一樹、志尊淳、眞島秀和、大塚寧々、吉田鋼太郎
監督:瑠東東一郎
脚本:徳尾浩司
主題歌:スキマスイッチ「Revival」(AUGUSTA RECORDS/UNIVERSAL MUSIC LLC)
(c)2019「劇場版おっさんずラブ」製作委員会
公式サイト:https://ossanslove-the-movie.com/

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