『全裸監督』黒木香役で圧倒的存在感! 女優・森田望智のキャリアに裏打ちされた演技メソッドとは

『全裸監督』森田望智の存在感の秘訣

 そう考えると、本作での彼女の演技は突然変異なのだろうかとさえ思えてしまう。それかむしろ、大役を射止めたから必然的に輝いて見えるのか、とも。しかしインタビュー記事などを拝見すると、決してそうではないと感じてしまう。黒木香という女優を演じるためにトレードマークである脇毛を作ってオーディションに臨んだり、役を射止めてからも独特な喋り方を習得するためのリサーチを重ねたり、黒木が執筆した書籍などの資料を読んでその考え方を学んだりと、決して突発的な憑依演技が自然発生したのではなく、彼女自身が女優として蓄積してきたメソッドが、どっぷりと役柄にのめり込むような形で具現化したということが見て取れる。

 無論、この役を他の女優がここまで演じきることができたかといえば、いくら武正晴や河合勇人、内田英治といった監督たちの安定した演出力があったといえども、そうは思えない。上品さを携えた佇まいから、一瞬でスイッチが入って豹変する姿。堂々としたその雰囲気はエロティックなようでいて、狂気じみた迫力と哀しみの両面を帯びている。単なる“体当たり演技”などという持て囃しの言葉では形容しきれない圧倒的な引力によって、山田孝之の独壇場になりかねない作品を丸ごと彼女の色に染めていく。これはもう、彼女が持ち得ていたポテンシャルが本作との出会いで花開いたとしか言いようがない。その点でも、劇中で彼女が演じた役柄と完全に同化しているようだ。

 彼女が本作をきっかけに出演作が急増するような大ブレイクを果たすか否か、それはNetflixオリジナルの国内テレビドラマ作品で注目を浴びた若手俳優という前例がまだ少ないため何とも言えないところではあるが、その可能性は間違いなく高い。すでに現在テレビ東京系で放送中のドラマ『Iターン』でもメインキャストの一角として出演しており、着実に民放ドラマなどでもその存在感を発揮しはじめているのだ。ひとつ期待を込めるのであれば、本作でのあまりにも鮮烈なイメージを覆すような、まったく異なるタイプの演技を『全裸監督』のシーズン2までに観せてもらいたいといったところだろうか。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』
Netflixにて全世界独占配信中
出演:山田孝之、満島真之介、森田望智、柄本時生、伊藤沙莉、冨手麻妙、後藤剛範、吉田鋼太郎、板尾創路、余貴美子、小雪、國村隼、玉山鉄二、リリー・フランキー、石橋凌
総監督:武正晴
監督:河合勇人、内田英治
原作:本橋信宏『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版)
Netflix:https://www.netflix.com/jp/

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