『凪のお暇』はなんて悩ましいドラマなんだ! どこまでもすれ違う黒木華と高橋一生

『凪のお暇』が描く浅ましさと悩ましさ

 誰しもその浅ましさを抱えて生きているからだろう。婚活に勤しむ元同僚を言葉で打ちのめした後、自分自身が婚活相手の肩書きを気にしていたことに気づき、その浅ましさに震える凪。空気を読んでひっそりと生きてきたところで、人間は空気清浄機のように綺麗な存在にはなれないのだ。実際はもっとドロドロして、自意識から離れることとなどできないし、何事にも淡白に生きてなどいられない。調子に乗って喋った後で、自分の浅ましさに自己嫌悪する。そんな日々の繰り返しである。無邪気に手作り一人流しそうめんを満喫する一方で、慎二やゴンのこと、間もなくやってきそうな母親のこと、過去に起こった出来事に囚われ、引き摺られ、葛藤している。28歳。生きていく上で、ピュアなだけではいられない、多少のふてぶてしさがないと世の中うまく渡っていけないことが痛いほどわかってくるお年頃。

 慎二もまた、空気を読みすぎる人物である。ただ、凪とは違って空気を読むことでその場を支配し、常に人々の先頭に立つ存在であるが、その一方で、「相手にとって心地のいい言葉を返すだけの透明人間」である自分のことを自覚している。彼も日々、凪の前で、あるいは会社で、精一杯格好つけながら、裏で毒を吐き、凪を好きすぎて悶え苦しんでいる。かつての凪と同じように「一匹だけ力強く逆方向に泳ぎ始めたイワシ」の姿に憧れるからこそ、会社から離れ、1人で生きようとする凪のことをなお一層好きにならずにはいられない。似たもの同士の2人は、似たもの同士だからこそ、どこまでもすれ違う。「噛み合わない歯車ってセクシー」だが、実際これほどもどかしいものはない。

 水の中で息もできずに苦しんでいた凪は、光のほうへ泳いでいき、風でカーテンが心地よく揺れ、誰もがありのままの自分を受け止めてくれる、今までとは違う地上の楽園で暮らす。そして、彼女が言うところの「人種の隔たりリバー」という、越えてはいけない川を勢いよく越えてしまった。

 凪は、ゴンに恋をすることでどう変わってしまうのか。恋という猛毒は、人をどこまでも狂わせる。どこまでもだらしなく、どこまでも浅ましく、どこまでも傲慢に。ああ、どうにも、悩ましいドラマである。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
金曜ドラマ『凪のお暇』
TBS系にて、7月19日(金)スタート 毎週金曜22:00~22:54放送
出演:黒木華、高橋一生、中村倫也、市川実日子、吉田羊、片平なぎさ、三田佳子、瀧内公美、大塚千弘、藤本泉、水谷果穂、唐田えりか、白鳥玉季、中田クルミ、谷恭輔、田本清嵐、ファーストサマーウイカ
原作:コナリミサト『凪のお暇』(秋田書店『Eleganceイブ』連載)
脚本:大島里美
演出:坪井敏雄、山本剛義、土井裕泰
プロデューサー:中井芳彦
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/NAGI_NO_OITOMA/

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