『天気の子』大ヒットスタート 万人向けだった『君の名は。』とは違う、その魅力とは?

『天気の子』、『君の名は。』とは違う魅力

 先週末に公開されたばかりの『天気の子』の初動の好成績は、『君の名は。』を最も熱く支持してきた観客の中心層である10代20代の観客が劇場に押し寄せた結果だろう。自分が公開5日目の今週火曜日に都内近郊のシネコンで作品を観た際も、夏休みのお昼どきということもあって、館内は10代の若者たちで溢れかえっていた(特に男子中学生、男子高校生が多かった)。夏休みの終わりに公開された『君の名は。』はその後すぐに新学期を迎え、そこから口コミでまずは若者層、そして全世代に広がっていって、公開から2か月が過ぎた後にも前週比を更新するといった驚異的なロングランとなっていったわけだが、今回の『天気の子』に同じような広がりを期待することは、この後にまだ何本も夏休み向けの強力作品の公開が控えている時期的にも、作品の内容的にも、お門違いと言える。

 興収250億円を超える歴史的なヒット作を世に送り出してしまった後、クリエイターの選択肢は限られている。一つは、周囲の期待に応えて前作を踏襲した作品を作ること。もう一つは、そのプレッシャーや反動からまったく違う作品を作ること。しかし、新海誠監督は『天気の子』で、キャラクターのデザインや音楽などでイメージ的には前作を踏襲しながらも、作品が内包する思想やメッセージという意味では前作を大きく更新する作品を作ってみせた。観客によってはそれを「進化」ではなく「自らの作家性に引きこもった」と受け止めるかもしれないが、自分は今回の『天気の子』を、勇気ある「社会現象化した作品の次作」として高く評価したい。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

■公開情報
『天気の子』
全国東宝系にて公開中
声の出演:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子、小栗旬
原作・脚本・監督:新海誠
音楽:RADWIMPS
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村篤
美術監督:滝口比呂志
(c)2019「天気の子」製作委員会
公式サイト:https://www.tenkinoko.com/

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