山口智子を“異質な存在”として描く狙いは? 「サバサバ」演技で包み込んだ過去への切ない思い

山口智子が作品に背負わされている役割は?

 こうした起用法が始まったのは、大根仁監督の『ハロー張りネズミ』(2017年、TBS系)からだろう。

 『ロングバケーション』(1996年、フジテレビ系)以来の連ドラ出演となった『ゴーイング マイ ホーム』(2012年、カンテレ・フジテレビ系)や、『心がポキッとね』(2015年、フジテレビ系)の出演時の演技には、世の中からすっかり消えてなくなって久しい“過去の遺物”のバブル臭が強烈に感じられ、「キツイ」という感想がネット上に溢れていた。

 しかし、それを逆手にとったのが前述の『ハロー張りネズミ』で、トレンディドラマの女王・山口智子に「5時から女♪」「よろぴく」と言わせたり、瑛太&森田剛が「後ろ姿はイケてるんだけどなあ」と呟かせたりして笑いをとった。

 よりによって、あの山口がトレンディで笑いをとる日がくるなんて良いのだろうかと不安になった人も多数いただろう。

 しかし、何かと『ロングバケーション』ばかりが語られがちだが、トレンディ時代の山口といえば、忘れてはいけないのが、『29歳のクリスマス』(フジテレビ系)だ。1986年に施行された「男女雇用機会均等法」によって、男性と同じ条件で働く「総合職」が生まれたが、その1期生の多くが29歳を迎えたのが、同ドラマ放送年の前年である1993年。山口が演じる総合職のヒロインが、29歳の誕生日に子会社のレストランに出向させられ、恋人にも振られ、円形脱毛症にまでなる。そんな“人生最悪の誕生日”から始まる物語だった。

 さらにその翌年には『王様のレストラン』(フジテレビ系)で、「やる気はないが、潜在能力が高く、後に開花していくシェフ」の磯野しずかを魅力的に演じた。『王様のレストラン』での山口が一番好きという人も、いまだに多数いるのではないだろうか。

 「バブル」の象徴のように語られ、今でも過去のイメージを引きずっているように描かれたり、見られたりする山口。「何を演じても山口智子」像は、昔から大きくシフトチェンジすることなく、いつでも気丈で、テンション高めで、サバサバしているように見えて、誰よりもウェットだ。

 『なつぞら』では戦後まもなく新宿に再建された「ムーランルージュ」の思い出を抱きつづけ、『監察医 朝顔』では人々の人生、震災、死と向き合い、過去を抱きつつ新しい一歩へ踏み出そうとしている。

 そんな過去への切ない思いや後悔、執着、哀愁などを表層的な「サバサバ」で包み込み、時代そのものを描くための装置のように居続ける。山口が作品に背負わされている役割は、実は非常に大きい気がする。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『監察医 朝顔』
フジテレビ系にて、毎週(月)21:00〜放送
出演:上野樹里、時任三郎、風間俊介、志田未来、中尾明慶、森本慎太郎(SixTONES/ジャニーズJr.)、坂ノ上茜、喜多乃 愛、宮本茉由、戸次重幸、平岩紙、三宅弘城、板尾創路、柄本明ほか
原作:香川まさひと
漫画:木村直巳
監修:佐藤喜宣『監察医 朝顔』(実業之日本社)
脚本:根本ノンジ
法医学監修:上村公一(東京医科歯科大学)
プロデュース:金城綾香
演出:平野眞、澤田鎌作
制作:フジテレビ
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/asagao/

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