『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』が浮き彫りにした“リメイクの難しさ” 他アニメ作品と共に考察

『ミュウツーの逆襲』が描く存在理由の追求

 またリメイク作品の難しさも浮き彫りにした。『トイ・ストーリー』シリーズの1作目にあたる『トイ・ストーリー』とオリジナルの『ミュウツーの逆襲』には“自己の存在とは何か?”という共通するテーマがある。『ミュウツーの逆襲』はクローンである自分の存在について思い悩み、オリジナルであるミュウに勝つことで自己の存在理由を証明しようとする物語がメインテーマとなる。『トイ・ストーリー』にも同じような描写があり、バズ・ライトイヤーは物語当初、自身が唯一無二のヒーローであると思い込んでいるが、量産されたおもちゃのうちの1体であることに気がつき大きな衝撃を受ける。この展開は“人に作られた存在”であるミュウツーと、おもちゃであるバズという点でも共通するものである。

 自己の存在理由の追求というのは幼児向けアニメの代表的作品でもある『アンパンマン』にも共通する。2018年公開の『それいけ!アンマンマン かがやけ! クルンといのちの星』でもメインテーマとなっている。自分がどこからやってきたのかも覚えていないクルンがバイキンマンやアンパンマンとの交流を通し、自身の存在理由について考え込むシーンが出てくるのだ。大人でも答えが出ない難しいテーマではあるものの、自我や自分と他者が違うものであるという認識を始めたばかりの子どもへ強く届くテーマと言えるのだろう。

 『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』では構成として湯山邦彦監督がクレジットされており、物語も完全にコピーというわけではなく、再構成されて新たに作り直されている。一方で、2010年に亡くなられた首藤剛志さんが今作でも脚本として単独でクレジットされており、オリジナル版からの大きな脚本の変更はされていない。テーマである自己の存在理由の追求というテーマの描き方も、構成や物語の取捨選択に若干の変更点はあるものの、概ね共通している。一方で、かつては共通するテーマを扱っていた『トイ・ストーリー』は、最新作においてそれまでのシリーズのテーマを更新するような描写がされており、より現代的な描き方がなされている。

 もちろんリメイク作品とシリーズの続編となる作品である以上、テーマの描き方に差が出るのは当然のことだ。しかしながらオリジナル版の『ミュウツーの逆襲』が公開された1998年は、遺伝子組換え食品の危険性や、羊のドリーを発端とするクローン技術に対する是非が議論となっていた時代である。現在でも議論が続いている問題だが、一般的に広く活発に議論されているような問題とは言い難い。問題意識のメインストリームが変容してしまった現代において、大きな手を加えることなくリメイクした場合、観客に問題提起として伝わりづらい部分があるのではないだろうか?

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