『きみと、波にのれたら』の違和感の正体 湯浅政明監督の作風から探る

『きみと、波にのれたら』の違和感の正体

 本作が後半で描いていくのは、海難事故によってカレシの港を亡くした、ひな子の悲しみと、立ち上がっていく姿である。もともとサーフィンが好きだったひな子は、心に受けた傷によって、波に乗ることができなくなってしまう。

 “波に乗る”というのは、ここでは人生を上手く生きていくということのメタファーでもある。上手にオムライスを作ることができないことが象徴するように、しっかりしているように見えて、ひな子は様々なことに不器用な女性で、将来の夢も見つけられていない。だからこそ彼女は、なんでも器用にこなし、消防士として立派に活躍している港に憧れることになる。

 しかし、港と恋愛をすることで彼女自身の課題が解消されるはずもなく、港を失ってからは、悲しみで日常生活すらもままならなくなっていく。そんなとき、港のある秘密を知ることで、ひな子は何でもこなす港が、スーパーマンのように優れた存在ではなく、じつはもともとは自分とそれほど変わらなかったということに気づいていく。そして港が自分の人生の波に乗るために奮闘していたように、自分の力で波の上に立とうとし始める。

 器用に生きる港と不器用なひな子に、決定的な違いがなかったように、ここで描かれるテーマは、誰にでも共通する課題である。その意味において、“ヤンキー”も“リア充”も“オタク”も、それほど違うことはないだろう。

 これまでの壁を破り、これまでのアニメーションのファンにも、いままでアニメに興味のなかった層にも通じるメッセージを伝えながら、その両方にそれぞれ新たな世界を見せていく。『きみと、波にのれたら』は、様々な観客にとっての発見の場になり得る可能性を持った、貴重な作品である。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『きみと、波にのれたら』
全国公開中
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子
音楽:大島ミチル
出演:片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎
アニメーション制作:サイエンスSARU
配給:東宝
(c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
公式サイト:https://kimi-nami.com/
公式Twitter:https://twitter.com/kiminami_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/kiminami_movie

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる