橋本愛が『いだてん』で再び触れた“宮藤官九郎哲学” 「みんなそれぞれの可笑しみがある」

橋本愛が『いだてん』触れた宮藤官九郎・哲学

美川、清さん、孝蔵……小梅を取り巻く男たち


ーー小梅が美川(勝地涼)と一緒になるはずだったのが、急に清さん(峯田和伸)と結ばれましたが、その展開はどう考えました?

橋本:小梅は、もう4回ぐらい転生してるので(笑)。美川さんと恋仲になっていた頃は、彼に期待していたところがあったとは思うんです。けど、まぁ、美川さんがあんな感じなので(笑)。愛想が尽きたじゃないけれど、やっぱり真のパートナーではないという思いはずっとあったんだろうなと。そんな時に清さんと向き合って、「割れ鍋に綴じ蓋」とセリフにもありますけど、自分のことを分かってくれて、肯定してくれて、守ってくれて、本当に頼もしい存在がこんなに近くにいたことに気づいて。美川さんへの不満が強ければ強いほど、清さんとの幸せを感じられるのは、すごく実感していました(笑)。

ーー清さんを演じる峯田さんと共演した印象はいかがですか。

橋本:峯田さんのお芝居、歌みたいだなと思っていて。ご本人が音楽をやられているのが関係しているのかは分からないのですが、流れるような聴き心地のいい語りというか、“あ、歌みたいだ”と一番初めに感じました。清さんとは、実際は触れ合っていなくても、ずっと隣にいて守ってくれているような気配を強く感じるので、フィクションを軽やかに超えられる人なんだなという印象が残っています。

ーー峯田さんが小梅を抱きしめてグッと引き寄せるシーンで、うまくできたかどうか……と話をしていたのですが。

橋本:うまくというか、気持ちはちゃんと伝わりました。引き寄せる時のセリフが、「俺が死ぬ気で守る」みたいなセリフで。言う人によっては、まぁ、例えば美川さんが言ったら絶対嘘に聞こえるんですけど(笑)、もう、真実なんですよ。真実が宿っているから、素直に感動しました。小梅が一番欲しかった言葉なんだろうなと思いましたね。

ーー小梅と孝蔵(森山未來)は同じような空気感を持っていると思うのですが、特に印象に残っているシーンはありますか。

橋本:孝ちゃんが初めて高座に上がった時です。あの時は私自身が感動しちゃって、小梅としてのリアクションに引き戻すのが大変でした。初高座なのにお酒を飲んで、清さんからの心のこもった贈り物も曲げちゃって、どうしようもないやつって思わなきゃいけないのに、気迫が物凄くて、拍手してしまいそうになりました(笑)。あのほとばしる化け物感を生で見せてもらって、一生の宝物になりました。

ーーこのドラマにおいての落語のシーンは大きな見どころですよね。

橋本:落語というかなりハードルの高い芸術を、限られた時間の中でどう表現されるのかなと内心興味津々でした。森山さんも松尾さんも、お芝居の延長線上に落語を据えているからこそ、ただ落語を落語としてやるのではなく、孝蔵や円喬の人格が滲み出ているというのが、物凄いことだなと。それでいて落語自体がどんどん上手くなっていく過程も表現に落とし込んでいて、具体的にどんな準備をされたのか聞いてみたいくらいです。

小梅のその後

ーー小梅は熊本の阿蘇から東京に出てきていますが、橋本さん自身も熊本出身という共通点がありますね。

橋本:熊本の土地柄というより、地方から東京に出てきた人のコンプレックスや期待感、東京への特別な想いのようなものが、全ての行動に根付いている気はしています。自分の理想とする江戸っ子に、自分を当てはめるように生きているのではないかと感じました。

ーー第23回の放送では、関東大震災が起こるシーンが描かれました。今後の小梅は清さんとどんな展開になっていくのでしょうか。

橋本:小梅や清さんは、被災してもその悲しみや苦しみに足を取られず、強く踏ん張って生きていきます。前に進むしかない! というエネルギーでなんとかみんなを引っ張っていくのですが、二人にもみんなと同じように深い深い傷がある。でもだからこそ寄り添うこともできるし、笑い飛ばすこともできるというのが、私自身小梅を通して、ほんの少しではあるけれど”当事者”になれた気がして、貴重な経験になりました。震災後しばらくして、私が台本を何度読んでも涙が出るくらい大好きな「復興運動会」のシーンが訪れます。小梅も苦しい中で生きてきて、やっとみんなの嘘のない笑顔が見られたことは、ご褒美のようだったのではないかと思います。運動やスポーツの持つ力が、私があの日抱きしめた実感と同じように、見てくださる方々にも届くといいなと思います。

(取材・文=大和田茉椰)

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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