性的マイノリティの問題を同性愛者の視点で描いた『きのう何食べた?』と『腐女子、うっかりゲイに告る。』

2019年4月期ドラマ振り返り

時代の模範的回答を示した『わたし、定時で帰ります。』

 一方、会社を舞台に「働き方」というテーマを描くことで注目されたのが『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)だ。本作は、効率よく仕事を片付けて「定時で帰る」ことをモットーとしている東山結衣(吉高由里子)が主人公のドラマで、職場の抱える様々な問題を性別、年齢、社会的立場の違う社員たちの視点から描いた群像劇として、「働き方改革」が叫ばれる時代の模範的回答を示していた。しかし、終盤に向かうにつれて、働くことでしか自己を証明できない人間の悲哀も描かれるようになっていく。物語は結衣のがんばりによって労働環境は改善されハッピーエンドとなるのが、どうにも嘘臭く、もしかしたら過労で倒れた結衣が見ている「夢」なんじゃないかと邪推してしまった。

 その意味で作品が描こうとした理想よりも、結衣までワーカーホリックになってしまう超過労働の持つ不気味な高揚感の方が印象的だった。

鬱屈した感情を掬い上げた『デジタル・タトゥー』

 最後に、個人的にもっとも楽しんだのがNHKの土曜ドラマで放送された『デジタル・タトゥー』だ。本作は元ユーチューバーの青年・タイガ(瀬戸康史)とヤメ検弁護士・岩井堅太郎(高橋克実)がデジタル・タトゥー(インターネット上に書き込まれた誹謗中傷や個人情報)にまつわる怪事件に立ち向かっていくバディモノのドラマだ。

 毎回登場する誹謗中傷を書き込む加害者たちは全員深い鬱屈を抱えて込んでおり、彼らの悪意に当てられて気持ち悪くなることも多かったが、同時にどこか清々しくも感じた。

 脚本は『ラスト・フレンズ』(フジテレビ系)でDV男の哀しみを描いた浅野妙子。こういう露悪的な作品を作ることは近年難しくなってきているが、「政治的な正しさ」をなぞるだけでは、こぼれ落ちてしまう現実というものがある。公共性を意識した理想を描く作品が増えるのは素晴らしいが、本作のような鬱屈した感情を掬い上げるような禍々しいドラマも作られ続けて欲しいと願う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『きのう何食べた?』
テレビ東京系にて、毎週金曜深夜0:12〜
※テレビ大阪は翌週月曜深夜0:12〜放送
原作:よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社『モーニング』連載中)
主演:西島秀俊、内野聖陽、マキタスポーツ、磯村勇斗、チャンカワイ、真凛、中村ゆりか、田中美佐子、矢柴俊博、高泉淳子、志賀廣太郎、山本耕史、磯村勇斗、梶芽衣子
脚本:安達奈緒子
監督:中江和仁、野尻克己、片桐健滋
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:松本拓(テレビ東京)、祖父江里奈(テレビ東京)、佐藤敦、瀬戸麻理子
OPテーマ:「帰り道」O.A.U(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)<NOFRAMES / TOY’S FACTORY>
EDテーマ:「iをyou」フレンズ<ソニー・ミュージック・レーベルズ>
制作:テレビ東京/松竹
製作著作:「きのう何食べた?」製作委員会
(c)「きのう何食べた?」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta/
公式Twitter:@tx_nanitabe

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