『なつぞら』内村光良は“語りかけ”のスタイル 今期ドラマにみる「参加するナレーション」の進化

今期ドラマにみる「参加するナレーション」の進化

 以上の2作に対し、ナレーションがただ参加するだけでなく、ある意味主役のようなポジションにもなっているのがNHK大河ドラマ『いだてん 〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』である。

 大河ドラマは1年の長丁場。加えて歴史ドラマというベースもあって、解説役を兼ねるナレーションは、朝ドラと同様NHKのアナウンサーや大物俳優が重厚なトーンで務めるのが定番だ。そのなかで、『武田信玄』のナレーションの若尾文子が毎回を締めくくりに発したフレーズ「今宵はここまでに致しとうござりまする」が流行語になるようなケースもあった。

 その意味で言えば、『いだてん』のナレーションは軽い。サブタイトルが示すように、全体が落語の「噺」として意図的に構成されているからだ。そうした話芸としての軽さが、いくつかの線が絡み合って複雑な物語が構築されているこのドラマを淀みなく進めていくうえでは必要だということなのだろう。

 その語りを務めるのが、ビートたけし演じる落語家・古今亭志ん生だ。そして志ん生は、このドラマの中心人物のひとりでもある。つまり、登場人物である志ん生が、ナレーションも務めるかたちである。志ん生は劇中の人物としてセリフを言う一方で、場面によってはそのセリフがそのままナレーションの役割も果たす。言い方を換えれば、志ん生は物語の外側にも内側にもいる。

 さらに、志ん生はひとりではない。戦後の寄席で志ん生を演じるビートたけしが語っている。ところが物語が戦前に切り替わると、いつのまにか語り手も若き日の志ん生を演じる森山未來に交代している。その意味では、語り手は1人でありながら2人でもあり、同時に過去と現在を縦横に行き来する。また、志ん生が自分のことを語るときは1人称の「私」の物語であり、直接の知り合いではない金栗四三のことや黎明期の女性スポーツ選手のことを語るときは、3人称の「彼」や「彼女」の物語である。

 このように『いだてん』では、まるで金栗四三が創設した駅伝のように、時間や人称の壁を自在に超え、最近は神木隆之介演じる弟子の五りんもその列に加わりナレーションのタスキが次々と受け渡されていく。『いだてん』というドラマの魅力は多々あるが、そのひとつにこうした変幻自在のナレーションが織り成す魅力があるのは間違いない。機会があれば、ぜひそのあたりにも注目して見てもらえればと思う。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

■放送情報
日曜劇場『集団左遷!!』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:福山雅治、香川照之、神木隆之介、中村アン、井之脇海、高橋和也、迫田孝也、増田修一朗、谷口翔太、橋本真実、市村正親、酒向芳、橋爪淳、津嘉山正種、尾美としのり、三上博史、八木亜希子、西田尚美、赤堀雅秋、パパイヤ鈴木
語り手:貫地谷しほり
三友銀行イメージガール:生田絵梨花(乃木坂46)
原作:江波戸哲夫『新装版銀行支店長』『集団左遷』(講談社文庫)
脚本:いずみ吉紘
プロデュース:飯田和孝、中前勇児
演出:平川雄一朗、田中健太
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/shudan-sasen/

連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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