『暁に祈れ』地獄の中にしか生まれ得ない生の美しさーー充実の特典映像でその魅力は倍増に

『暁に祈れ』地獄の中に生まれる生の美しさ

作品の魅力を拡げる映像特典の数々

 本作のDVD・Blu-rayの映像特典は大変魅力的だ。我々の知らない現実を突きつける本作の内容を補完し、想像力を拡張してくれる。

 まず本作の主人公であるビリー・ムーア本人のインタビューが収録されている。彼がどんな人生を歩み、タイに行くことになったのか、そして、自らの過ちによって収監された過去、さらにイギリスにおいても何度も収監されている彼が自らの人生を振り返るインタビューとなっている。時おり見せる、深い悔恨の顔が彼の歩んできた人生の苦しさを物語る。

 そして世界の危険地域を取材してきたジャーナリスト、丸山ゴンザレス氏による現地レポートも非常に見応えがある。ロケ場所となった建物への潜入取材では、捨てられた囚人服や、壁に貼られたグラビア写真など、囚人たちの生活の跡が生々しく残った様子が映されている。さらにタイで弁護士活動をする日本人、金丸昌弘氏へのインタビューでは、タイの犯罪事情などを詳しく聞いている。本作の物語のきっかけは、ビリーが麻薬所持で逮捕されることだが、タイでは麻薬を手に入れることが容易であり、若者たちにとって身近な脅威であることなどがよくわかるインタビューとなっている。

 さらに映画に囚人役で出演した男性や、本作のヒロインであるレディーボーイの女優、ポンチャノック・マーブグランにもインタビューしており、映画の描写がいかに本物志向であるかなどが語られる。特に、囚人役で出演した男性は、かつて殺人で終身刑となった本物の犯罪者であり、恩赦で釈放されたそうだが、インタビューだけでも本物の犯罪者が放つ異様な迫力がビシビシ伝わってくる。

 ゴンザレス氏のレポートの中で、筆者が特に印象深かったのは、入れ墨彫師へのインタビューだ。ギャングたちが全身に入れている入れ墨は、サクヤン(護符入墨)と呼ばれる宗教的な意味合いの強い種類の入れ墨で、彫る際に行う降霊の儀式の模様も記録されている。サクヤンは、ギャングだけではなく、仏教の僧侶なども身体に入れていることもあるが、悪い宿縁などから身を守るという願掛けの意味もあるそうだ。そういった意味のある入れ墨を、地獄のような刑務所に入れられた囚人たちが全身に施しているのは皮肉にも感じるが、ギャングたちも、ただのアウトローの象徴として入れ墨を背負っているわけではないということなのだろう。そんな宗教的な側面について知ると、映画本編もまた違った一面が見えてくる。

 総じて、映画本編をより深く理解するのに役立つ情報ばかりだ。映画本編は、平々凡々と生きる我々にとって未知の世界を体験さえてくれ、映像特典はその世界をさらに拡張してくれる。本編の魅力を高めてくれる理想的な特典だ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。 

■リリース情報
『暁に祈れ』
Blu-ray&DVD、発売中
Blu-ray:4,800円+税
DVD:3,900円+税

【特典】
●封入特典
・特製ブックレット
●映像特典
・予告編
・メイキング
・原作者ビリー・ムーア インタビュー映像 ・丸山ゴンザレス×『暁に祈れ』デンジャラス現地取材レポート

監督:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
原作:ビリー・ムーア『A Prayer Before Dawn: My Nightmare in Thailand's Prisons』
出演:ジョー・コール、ヴィタヤ・パンスリンガム、ソムラック・カムシン、ポンチャノック・マーブグラン、パンヤ・イムアンパイ
2017年/イギリス・フランス/英語、タイ語/シネスコ/117分/原題:A Prayer Before Dawn/日本語字幕
発売元・販売元・ハピネット
(c)2017 - Meridian Entertainment - Senorita Films SAS
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/APBD/dvd/

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