『きのう何食べた?』脇役にも個性的なキャストが揃う 主人公たちの“背景”として埋没しない存在感

『きのう何食べた?』脇役も個性的

川瀬陽太、真魚、唯野未歩子……存在感のある脇役たち


 『きのう何食べた?』で特筆すべきは、ほんの少ししか登場しない脇役にも個性的なキャスティングがなされていることだ。そこにはある意図が感じられる。

 その一例が、6話に登場した生稲という人物を演じた川瀬陽太だ。6話は、小日向さんから食事に誘われたり、女性の司法修習生から熱い眼差しを向けられたりしたシロさんが自意識過剰になるコミカルなエピソードだったが、その中で生稲は母親を医療事故で亡くした依頼人として登場する。短いシーンながら、生稲が登場すると画面に一気に緊迫感が増す。シロさんの説得によって生稲が涙する場面では、思わず胸が熱くなった視聴者も少なくないだろう。

 川瀬はピンク映画を中心に、映画、テレビドラマ、オリジナルビデオを合わせると出演作が170本を超えるというベテラン俳優。2018年は一般映画だけで主演作含めて18本も出演しており、もはや日本映画にはなくてはならない存在と言えるだろう。ピンク時代からの付き合いである瀬々敬久監督作品の常連でもある。テレビドラマでは、広瀬すず主演の『anone』(日本テレビ系)で阿部サダヲと小林聡美を拳銃で監禁する男役が印象的だった。

 同じく6話では司法修習生の長森夕未を演じた真魚にも注目が集まった。昨年、日本中で旋風を巻き起こした映画『カメラを止めるな!』で主人公の熱血な娘役を演じた女優で、そのまっすぐな部分が長森のイメージにぴったり。実際、真魚自身も熱い性格の持ち主なのだという。

 1話から顔を出しているスーパー・中村屋のレジ打ちのオバちゃんを演じる唯野未歩子は、1990年代から矢口史靖監督らの自主映画で活躍してきた女優。2005年には処女小説『三年身籠る』を自ら監督して映画化しているが、このときの主演が西島秀俊だった(妻役は元オセロの中島知子)。女優、作家としての活動のほか、脚本家として中島哲也監督『渇き』の共同脚本を務めるなど、多才な人物として知られている。

 2話に登場したシロさんの元彼女で、パン屋で働く仁美を演じた大島葉子は、モデルとして活躍しながら、河瀬直美監督の『影-Shadow』の主演として女優デビュー。カンヌ映画祭に出品された河瀬監督の『朱花の月』でも主演を務めている。瀬々監督の大作『ヘヴンズストーリー』でも重要な役を演じていた。身長170センチで、なんだか普通じゃない存在感を持つ彼女なら、シロさんが付き合えると勘違いしてもおかしくないのかもしれない。

 彼らはほんの脇役ながら、主人公たちの背景として埋没しない存在感がある。シロさん、ケンジ、小日向さん、ジルベールの微笑ましいやりとりと美味しそうな食事がこのドラマのすべてというわけではないんだよ、その周囲にはちゃんと人がいて、彼らにもリアルな生活があるんだよ、とアピールしているように感じる。

 可愛らしい“癒やし”の世界にとじこもることなく、ドラマ全体を絵空事にしない。ドラマのリアリティを上げることで、主人公たちにも人間として血が通うようになる。そんな意図が『きのう何食べた?』の脇役のキャスティングに意図されているような気がしてならない。今後もどのようなキャスティングが見られるか楽しみだ。

※河瀬直美の「瀬」は旧字体が正式表記

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
『きのう何食べた?』
テレビ東京系にて、毎週金曜深夜0:12〜
※テレビ大阪は翌週月曜深夜0:12〜放送
原作:よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社『モーニング』連載中)
主演:西島秀俊、内野聖陽、マキタスポーツ、磯村勇斗、チャンカワイ、真凛、中村ゆりか、田中美佐子、矢柴俊博、高泉淳子、志賀廣太郎、山本耕史、磯村勇斗、梶芽衣子
脚本:安達奈緒子
監督:中江和仁、野尻克己、片桐健滋
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:松本拓(テレビ東京)、祖父江里奈(テレビ東京)、佐藤敦、瀬戸麻理子
OPテーマ:「帰り道」O.A.U(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)<NOFRAMES / TOY’S FACTORY>
EDテーマ:「iをyou」フレンズ<ソニー・ミュージック・レーベルズ>
制作:テレビ東京/松竹
製作著作:「きのう何食べた?」製作委員会
(c)「きのう何食べた?」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta/
公式Twitter:@tx_nanitabe

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