トム・クルーズの“トムクル力”を堪能せよ! 『ミッション:インポッシブル』シリーズを総括

トム・クルーズの“トムクル力”を堪能せよ!

「トムクルさんの天下は永遠に続く」と思われたが ……

『M:Iー2』(c)PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

 1作目で「原作と全然違うやないか」と叱られたトムクルさんだが、この続編では更にとんでもないことをやってのける。香港アクションの巨匠ジョン・ウーを監督にしたのだ。ウーといえば、今なお語り継がれる香港ノワールの傑作『男たちの挽歌』(1986年)を手掛け、“ヴァイオレンスの詩人”と呼ばれたアクション映画界の巨匠である。当時のウーは既にハリウッドで『フェイス/オフ』(1997年)を始めとした傑作を連打していた。しかもウーの影響下にある『マトリックス』(1999年)が公開された直後でもあり、トムクルさん主演のアクション映画を監督してもおかしくはない状態だったが、とはいっても『M:I』シリーズを監督したのは奇跡だろう。

『M:Iー2』(c)PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

 トムクルさん×ウー×『スパイ大作戦』、この暴挙ともいえる掛け算は凄まじい値を弾き出した。一応、前作からハッカー役のルーサー(ヴィング・レイムス)は続投したものの、本作は完全にトムクルさんの独壇場。本筋と関係ないロック・クライミングから始まり、ロケットランチャーでサングラスが届けられる快シーンでオープニング・タイトルへ。後半はトムクルさんがウー必殺のスローモーション&2丁拳銃で大暴れ。もはやスパイ感はゼロだったが、バイクにまたがって銃を乱射するトムクルさんは文句なしにカッコよく、再び映画は全世界で大ヒット。ついでにサントラも、当時ブイブイいわせていたLimp Bizkitを筆頭に、MetallicaやRob Zombie、Foo FightersとQUEENのブライアン・メイがPink Floydをカバーするといったテンション高めの内容になり、日本で売れまくった(今でもブックオフで見かける頻度が最も高いサントラではあるまいか)。トムクルさんの天下は永遠に続く……と思われた。

“Mr.地ならし”J・J・エイブラムスの抜擢

『M:i:III』(c)PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

 沈まぬ太陽はない。スターのキャリアも同様だ。トムクルさんは2000年代の中盤に致命的なやらかしを行う。昔から熱心なサイエントロジーの信者であり、若干の奇行が見られる人だったが、あるトーク番組で遂にお気持ちが爆裂。トムクルさんはセットの中で暴れ回る奇行で全世界を困惑させる。それは数十年かけて作り上げたイメージが一瞬で瓦解し、「トム・クルーズ」=「変人」という公式が成立した瞬間であった。こうした状況下で作られたのが『M:i:III』(2006年)だ。

『M:i:III』(c)PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

 正直、公開前は奇行騒動のせいで凄く渋い空気だったのを覚えている。しかし、ここでトムクルさんは適切な映画作りを行った。これまでの反省か、トムクルさんはある人物を監督に据える。その男こそ人呼んで“Mr.地ならし”J・J・エイブラムス。後に『スターウォーズ』『スタートレック』というアメリカの2大神話をオールド・ファンにも新規客にも優しく仕上げ、荒れまくっていた『スターウォーズ』の9作目をサッと撮り終えた才人だ。そしてJ・Jは、ブライアン・デ・パルマ、ジョン・ウーというアクの強い鬼才たちが暴れ回った後を綺麗サッパリ整えてみせた。具体的にはドラマ版への回帰を目指したのだ。ほぼトムクルさんのワンマン映画から、チームを強調したプロットを用意。なおかつ1のサスペンス性と、2のアクションをバランスよく取り込んだ。また、1がトムクルさんを吊り、2がトムクルさんをバイクに乗せたように、本作はトムクルさんに特徴的なアクションを用意した。全力ダッシュである。映画のクライマックス、全力ダッシュするトムクルさんを横から捉えたシーンは印象的で、後のシリーズにも多大な影響を与えた。

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