『貞子』は楽しく怖がることができるジャンル映画に “ポップ化”以降の貞子の存在を検証

映画『貞子』はジャンル映画に

 それに比べると、20年後の本作は先鋭的な作品とは言い難いかもしれない。多くのシーンが論理的に説明できるからである。その意味で、実験的な刺激は少ないものの、だからこそ楽しく怖がることができるジャンル映画に変貌したといえよう。それが、『リング』よりも肩の力を抜いた『貞子』の魅力というところだろう。

 しかし、そこは中田秀夫監督、アート的な見せ場も用意されている。恐怖によって精神に異常をきたし、ガタガタとおびえ続ける人物の視点から、カーテンごしに移動する人物をとらえたシーンは、恐怖映画と観客の関係を純化したような抽象的なものとなっている。見えないから怖い、いつ襲われるか分からない。しかしそれは、“きっと来る”のだ。この構図は、いつか迎える“死”に怯える、われわれの潜在的な恐怖そのものを描いているのではないのか。恐怖映画を観に劇場に行くという行為には、心の奥で“擬似的な死を体験したい”と願っているということなのかもしれない。本作のラストシーンには、そんな哲学的な問いを呼び覚ます力があったように感じられた。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『貞子』
全国公開中
出演:池田エライザ、塚本高史、清水尋也、姫嶋ひめか、桐山漣、ともさかりえ、佐藤仁美
※桐山漣の漣は「さんずいに連(しんにょうの点が1つ)」が正式表記
原作:鈴木光司『タイド』(角川ホラー文庫刊)
監督:中田秀夫
脚本:杉原憲明
配給:KADOKAWA
(c)2019「貞子」製作委員会
公式サイト:sadako-movie.jp
貞子公式Twitter:@sadako3d

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