『いだてん』先人たちの無念と努力が100年後の東京五輪へ 前半と後半でガラリと変化した演出

『いだてん』第20回、前半と後半で真逆の演出

 報告会での演出がとても残酷だ。競技の場面が描かれなくとも、オリンピック後の選手団の沈痛な面持ちが全てを物語っている。好成績を残すことができた選手もいた。しかし報告会にやってきた記者団は1つの「敗北」もよしとしなかった。選手団を代表して発言する野口源三郎(永山絢斗)が「予選敗退」「棄権」と言葉にするたび、記者団は非難の声を浴びせる。選手たちが競技の内容やどれほど練習を重ねて臨んだのかを訴えかけても、聞き入れる様子はない。「非国民」と罵倒する声も聞こえた。前半の希望に満ちた演出が輝いて見えたからこそ、報告会の様子は息が詰まるように苦しいものだった。

 だが、批判する記者団に力強く反論するスヤ(綾瀬はるか)や若き選手たち、会場で四三らの勇姿を見届けた永井らの発言が、大正9年と100年後の2020年をつなぐ。体協を退くことにした治五郎は「50年後、100年後の選手たちが、運動やスポーツを楽しんでくれていたら、我々としては嬉しいよね」と永井に言った。かつて永井は「日本が世界と肩を並べるのに50年を要する」と言っていたが、治五郎はその50年後、100年後の未来に希望を見ていたのだ。「日本の体育を頼んだぞ」と永井は、後に日本全国にスポーツを広める野口と二階堂トクヨ(寺島しのぶ)に伝えた。四三らがオリンピックへ出場していなかったら、度重なる失望や敗北を味わってもなお前へ進もうという努力をしていなかったら、スポーツを広めようとしていなかったら、100年後に訪れる東京オリンピックも儚い夢となっていたのではないだろうか。屈辱や無念を味わい、厳しい非難に晒されながらも、オリンピックに挑み続けた四三、そしてその時代を生きてきた人の姿が鮮烈に心に残る。

 戦争の痕跡残るアントワープの街を、ただひたすらに駆け抜ける選手たち。戦争の映像が投影された街並みと走る選手たちの姿は、第一次世界大戦後の時代の苛烈さを表しているかのようで、美しくも切ない演出だった。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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