新鮮な笑いと優しさをもたらす「古田新太マジック」 『俺スカ』のぶおの原動力は“快・不快”?

新鮮な笑いをもたらす「古田新太マジック」

 のぶおはいわゆる「熱血教師」でもなければ、『ごくせん』(日本テレビ系)、『GTO』(カンテレ・フジテレビ系)のような「教師はこうあるべき」の常識を覆す型破りの教師でもない。まして『女王の教室』(日本テレビ系)のように、自らが悪者になって、世の中の理不尽さと戦う力を子どもたちに身に着けさせる真の教育者でもない。

  生徒たちの名前を覚えず、「お前」呼ばわりしたり、コミュニケーションをとれずにマスクを常に着用している生徒から無理にマスクをとろうとしたりと、デリカシーのかけらもない。しかも、屋上から飛び降りようとする生徒を、止めるどころか、「飛べ!」と言う。

 しかし、そこで、「お前」と呼んでいたクラスの生徒たち一人一人の名前を呼び、屋上から飛び降りようとするクラスメートを、クラス全員で受け止めるよう準備させる。全員が張り巡らしたセーフティーネットによって、自分の殻を破って「飛ぶ」ことができた生徒は、そこで初めて自らマスクを外すのだった。

 この滅茶苦茶で乱暴な「荒業」は、全てのぶおの計算通りなどというキレイなものではない。ただし、のぶお自身が人生の先輩として上から教えるのでなく、自らも「生徒の名前をちゃんと覚える」という成長を見せたことにより、相手も変わろうとした。あくまで生徒と対等な関係になったことで、勝ち取った信頼だろう。

 のぶおはセコイし、ズボラだし、口は悪いし、先生としてはダメなところだらけ。型破りな言動も、生徒たちを奮起させるために「計算」でやっているわけではない。立派な教育理念や、「教師」としての責任感ではなく、のぶおを突き動かしているのは、生徒一人ひとりと正面から向き合うことから起こる、快・不快の感情だ。

 善悪二元論で物事は語れないし、理屈で説明できないことなんて世の中にはたくさんある。その点、不安定で揺らぎがあって、脆くも見える「感情」は、実は最も柔軟性に富んでいて、ブレない指針となる。

 誰かが傷つけられたら怒るし、一生懸命戦っているなら背中を押す。ややこしい条件や難しい理屈などお構いなしに、シンプルに快・不快の感情で動く。その正直さ、寛容さ、生きものとしての根源的なあり方に、生徒たちも職員たちも惹かれ、巻き込まれていくのだろう。

 改めて、この作品は、古田新太ナシには成立しなかった気がする。同じコワモテ役者でも、遠藤憲一や吉田鋼太郎が演じたらもっと哀愁漂う可愛さが見えてしまったろうし、コメディ俳優でも、阿部サダヲが演じたら、もっと他者の心の機微が細やかにわかってしまいそう。

 その点、古田新太が演じるのぶおは、素の顔がやっぱり怖いし、ダメ人間臭さが溢れているし、それでいて生徒たちと正面から向き合う凄みは、とてつもなく高い受信力・包容力を感じさせる。

 後ろ姿を見せているときでも、炎が立ち上がって見えるほど怒りが明確に伝わるときもあるし、破顔一笑したときの顔は幼児のようにキュートに見えることもある。全く得体が知れないことこの上ない。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
土曜ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜放送
出演:古田新太、松下奈緒、白石麻衣、永瀬廉(King & Prince)、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、長尾謙杜(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、阿久津仁愛、須藤蓮、堀家一希、眞島秀斗、富園力也、黒田照龍、河野紳之介、兼高主税、葵揚、次も大塚、吉田翔、中西南央、高橋ひかる、竹内愛紗、箭内夢菜、秋乃ゆに、宮野陽名、国府田聖那、染野有来、西村瑠香、前川歌音、宮部のぞみ、松村キサラ、松永有紗、菊池和澄、宇田彩花、横島ふうか、小市慢太郎、じろう(シソンヌ)、桐山漣、大西礼芳、片山友希、伊藤あさひ、田野倉雄太、中川大輔、大倉孝二、荒川良々、いとうせいこう
脚本:加藤拓也
音楽:井筒昭雄
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:大倉寛子、茂山佳則(AXON)
IPプロデューサー:植野浩之
キャラクター(原田のぶお)監修:ブルボンヌ、白川大介
演出:狩山俊輔、水野格
制作協力:AXON
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/oresuka/

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