『シャザム!』なぜ心震わせる作品に? 人間ドラマによって生み出される真のヒーロー像

『シャザム!』が心震わせる作品となった理由

ホラー監督によるヒーロー映画の面白さ

 超マッチョな肉体に、全身タイツのようなぴったりとしたコスチュームを着て、長いマントを羽織る、とくにスーパーマンのようなタイプのヒーローの姿は、もう数十年も前から、一般的な人々の間で「ダサい」と思われてきたところがある。コミックや実写化作品では、コスチュームのデザインを日々新しいものにし続けることによって、それをかっこいいものとして認識できるよう努力を続けてきた。しかし本作のヒーローは、そのボディービルダーのようなムキムキの肉体とともに、古いコミックから抜け出てきたようなイメージをそのままさらし、その姿で地下鉄に乗車して一般人から大笑いされるシーンがある。

 コミックのなかでも、このヒーローはコテコテといえる印象を引きずるキャラクターであり、ときにシリアスになりながらも比較的ユーモアのある作風が特徴だった。アニメ版でもかなりギャグが多く、おおらかな作品というイメージが強い。実写映画として、そんな題材を活かすのなら、ギャグに振り切ってしてしまえばいい。おそらくはこんな発想で、本作は悪ふざけをしながらヒーローの活躍を描いていくことで、現代の作品として成立しているといえる。

 本作を監督したのは、近年、ジェームズ・ワン監督(『ソウ』、『死霊館』、『アクアマン』)に見出され、彼のもとで『ライト/オフ』(2016年)、『アナベル 死霊人形の誕生』(2017年)というホラー映画を撮った、スウェーデン出身のデヴィッド・F・サンドバーグである。それ以前、サンドバーグは自身の妻を主演させ、YouTubeに優れたホラー動画をアップし注目を集めていた。

 ホラー作家が本作のような映画をまかされることは意外に感じるが、彼は“ponysmasher”「ポニー(かわいい馬)をぶん殴る者」というユーザー名で、過激なFlashアニメも発表するなど、じつはもともとユーモアのセンスに長けた映像作家だった。日本でも、水木しげるや楳図かずおのような、ホラーとユーモアが重なる作家性を持つクリエイターが存在するように、それらの感覚には近しいものがある。優れたホラーを作れる者は、往往にして楽しい作品も創造できるということである。

共感できる超人ヒーロー

 本作の主人公は、幼い頃にシングルマザーとはぐれ、以来、施設や里親のもとで生活してきた少年ビリー・バットソン。彼は母の消息をたずねるために警察のデータを盗み見るなど数々のトラブルを起こしていた。そんな彼の前に、ある日魔術師が現れ、ひょんなことからビリーは“スーパーマン”と同等といえるほどの強大なパワーを授かることになる。

 ビリーはその圧倒的なパワーを利用して、悪ガキのような遊びを繰り返していく。いじめっ子の所有物を破壊したり、映画『ロッキー』シリーズの主題歌として知られる「アイ・オブ・ザ・タイガー」のイントロのリズムに合わせて、調子に乗って人々の前で電撃を放ちながら踊るという、とんでもない行動も見せる。それにしても、かつてここまでくだらないことにスーパーパワーを使ったヒーローがいただろうか……。

 だが、想像してみてほしい。もしこのような力を手にしたら、ほとんどの人間はビリーのように、むやみに力を試したくなってしまうのではないだろうか。そう考えると、むしろそのような無茶をしない多くのヒーローたちの方が、行儀が良すぎるのかもしれない。このように、当然あるだろう感情を描いてくれたことによって、本作は主人公がたとえ超人となったとしても、多くの観客に感情移入させる間口の広さを獲得しているといえる。

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