奥山玲子を通して見るアニメーション業界の黎明期 『なつぞら』奥原なつとの共通点は?

奥山玲子、『なつぞら』奥原なつとの共通点は?

アニメーションにおける女性の地位を高める

 昭和34(1959)年、東映動画に『アルプスの少女ハイジ』などを手がけ、後に『スーパーマリオブラザーズ』などのキャラクター監修を務めたアニメーターの小田部羊一氏、『かぐや姫の物語』などで知られるアニメ監督の高畑勲氏が入社する。大塚氏は奥山の先輩、小田部氏、高畑氏は後輩だった。後に奥山と結婚した小田部氏は『なつぞら』でアニメーション時代考証を務めている。宮崎駿氏が入社したのは昭和38(1963)年のこと。先輩、後輩たちとの奮闘ぶりは『なつぞら』でも克明に描かれるだろう。

 奥山は仲間たちとともに、たくさんのアニメをつくっていった。高畑勲監督『太陽の王子 ホルスの大冒険』(68年)では原画を、TVアニメ『魔法使いサリー』(66~68年)や『ひみつのアッコちゃん』(69~70年)などでは作画監督も務めた。『アンデルセン童話 にんぎょ姫』(75年)では、長編アニメにおいて女性初となった作画監督を単独で務めた。

 夫の小田部氏によると、奥山は「負けず嫌いで反骨精神のある自立した女性」だったという(FRIDAY DIGITAL/3月31日)。当時、東映動画の女性スタッフは「結婚したら退職します」という誓約書を書かされていたが、奥山は猛反発したという。また、大川社長の死後(1971年)、赤字部門だった東映動画の縮小削減が行われつつあったが、労働組合が激しく反発。その先頭に立って舌鋒鋭く会社側を糾弾していたのが奥山だった。先輩アニメーターの大塚康生氏は奥山について「アニメーションにおける女性の地位を高めるために戦って来た一面」があると評している(高畑勲・宮崎駿作品研究所「追悼 奥山玲子さん」)。

 東映動画を退職後は、日本アニメーションへ移って『母をたずねて三千里』(76年)のメインスタッフを務めた。1985年からは東京デザイナー学院アニメーション科で教鞭をとるかたわら、銅版画家としても活躍した。

 『なつぞら』の脚本家、大森寿美男氏は、なつの人物像について「自分の意思を貫いて生きていくヒロインではないと思いました」「人の心に流されながら、出会いと関わりのなかで、人生を見いだしていくヒロインだと思ったんです」と語っている(『なつぞら』公式サイト)。この発言から推測すると、『なつぞら』では奥山の激しかった部分はあまり描かれないのではないかと思う。小田部氏は当時を知る人から「これは奥山さんとは違う!」という指摘が相次いでいると笑い、「奥山の伝記じゃなくて、『モデル』というか『ヒント』なんです」と語っている(FRYDAY DIGITAL/3月31日)。

 奥山玲子さんという時代を切り開いた一人の女性がいた。彼女の姿を通してアニメーション業界の黎明期を描きつつ、同時に奥原なつという主人公が家族や仲間たちとのかかわりの中でどのような人生を切り開いていくかを描く――それが『なつぞら』というドラマなのだと思う。そういえば、完全に創作部分の第1週、第2週は“開拓者”たちのお話だった。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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